「お、お初にお目にかかります!」
そう言って私に頭を下げているのは先ほど私と義姫様の謁見の時にいた、黒髪の男だ。
横で義姫様は笑ってはいるが、私は疑問だらけだ。
「わ、私は小次郎にございます。貴女様が、弟の・・・っ」
恐縮しきったその口調に、フッと思い出すことがある。
まるで小さい頃の私をみているようだ。そう思うと笑いそうになる。目の前の、年下の弟はこんなに頑張っているのに、
着慣れない着物では動きづらいがすっと丁寧な仕草で小次郎の前に座れば、びくりと小次郎は顔を震わせた。
『顔を上げろ。』
「い、いえ、私は・・・」
『安心しろ、俺の弟なんだろ?』
「!」
顔をバッと上げた小次郎、微笑みかける。そうすれば目をきょろきょろと移動した後にまた視線だけを下にしてしまった。
ククっとそれに笑う。
『俺にも、そういう反抗的な時期はあったさ。きっと・・父上もこんな気持ちだったんだろうな』
元服をせまったとき、父上は・・・輝宗様はこんな気持ちだったんだろう。血の繋がった子供が己に敬語で、そして頭を下げているんだ
酷く、複雑だ。
『俺は、お前の姉であり、兄だ。だから、そんなに固くならなくて良いよ、』
「っ」
微笑みつつ、そういえばさらりと彼の長い髪が肩から滑り落ちた。きっと、複雑なんだろう。私も複雑だったから。
『俺の、いや、私のせいで周りからの目は辛かっただろう?ごめんな、小次郎。いや、一回も呼んだ事ないから、どうかと思うが、私の弟は竺丸、お前だけだ。』
女で力はあっても、右目は無い。つまり、体が弱いってことだそれに比べて小次郎は男。しかも偉大なる父上の。健康体は一番いいことだ。
「あ、姉上・・と、」
『あぁ、そう言って良い。』
「っありがとうございます!」
『・・フフ、』
まるで、大型犬といって正しいだろう。
輝宗様は父上は最初っから、こうしたかったんだろう。己と、妻と、そして娘と息子。4人でむつまじく、笑う、そんな光景を・・・
少しそわそわしている小次郎に笑いかけて頭を撫でれば、本当に嬉しそうに飛びついてきた。本当に大型犬だな
全く。
執筆日 20130619