『失礼いたします』


出した声は、情け無いくらいに震えていた。スッと襖を開き、中に入る。
けれど、中にいたのは義姫様一人ではなく・・・私と同じ色の黒髪を持ち、でも私とは裏腹に長い髪の男。そして上座には数年ぶりに見る・・義姫様の姿。

あぁ、私の首を切る為にあの男がいるのか、なんて心の中で笑ってしまうが、横にいた小十郎が私の名を小さく呼んだから、小さく頷いて歩き出した。義姫様の前まで行き、そして深く、頭を下げる。

ここに、親子の縁はない。元服の時に一度、切ったその縁を輝宗様が私を養子という名目で再びつなげてくれた親子の縁。

でも・・・だ


『輝宗様を殺したのは、私です。なにとぞ、処罰を。』


畠山を殺したのは小十郎だ。
でも・・・守らなくてはいけない、輝宗様を殺したのは私。


「・・っ」


小十郎が小さく息を呑んだ。きっと最悪な結果を思ったんだろう。

畳に着物の擦れる音。ピタリと私の前でとまり、そして、座って私の肩に軽く触れた。


「処罰されるのは、妾の方じゃ・・・政宗・・・」


そして、言われた言葉は私と同じで震えていた、グイッと畳についていた手が引っ張られて、抱きしめられる。

ふわりとかおる伽羅の香り。幼い頃以来の・・・母の香り
とくとくと、心臓が痛い。でも・・・


『(温かい・・・っ)』


抱きしめ返すことは出来ない。私の手は、汚れているから・・・だから・・・私は出来ない。


「妾が悪いのじゃ・・・すまぬ、すまぬ・・・梵・・・っ」


そして・・・その言葉に、絶対に泣かないと思っていたのに・・・ぽろぽろと、残っている左目から涙が滑り落ちて行く。なんで、なんで、こんなにも・・

ゆるりと、私以上に涙を流し身体を振るわせる義姫さまの背を、そっとなでる。あの頃は私のほうが小さかったのに・・・
これが・・・時の流れというものなのだろうか・・


『おなごの、梵はとうに死にました。』
「っ・・・」
『俺は、伊達藤次郎政宗。輝宗様の・・・養子です。っ貴女さまを・・母と・・・梵のときのように・・・母上と呼んでも・・・よろしいでしょうか・・・?』



ずっとずっと、心細かった。
本当に本音を言えば・・・輝宗様にあの話をされ、互いに話し、あの手紙を貰った時に、ずっとずっと言いたかったのだ母上、と



「政宗、政宗…っすまぬ、本当に、すまなかった・・・っ」



それからしばらくは、ずっと二人で泣いていた


執筆日 20130613



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