これが、「俺」の求めた世界のはずだった。



上がる狼煙、断末魔、悲鳴、血飛沫…


逃げ出したい。
そう感じたのが、私の率直な意見だった。今までここに立ちたいと思っていた

グチャグチャになる。気持ち悪い。この光景が怖い。なんで…人は…
口元を覆って、下を向く。そうしないと、本当に発狂しそうだった。


「政宗様、あまり無理はしないでください」
『Don't Worry…気にすんな…』


殺し合いなんて、求めちゃいない。たしかに、この乱世の世。仕方の無いことだと割り切らなくちゃいけない。だが…

顔を上げる。人が人を傷つけあう。これが、本当の戦。


『(私が、俺が望んだ生きる場所)』


立ち上がる。ここは本陣。少なくとも、他の場所よりかはずっと安全だ。だが…今、伊達軍はかすかに劣勢である。戦場に居る輝宗様にだって、危険が及んでる。
勝つには…


「政宗様、まさか」
『馬を用意しろ、綱。』
「っですが」
『右側は任せた。あいにく、小十郎は居ないから。』


嫌でも、怖くても、俺が立つ。腰に下げる刀は4本。やっと慣れてきた重さだ。

それに、もっと強くなりたい、この力は何の為に使うか…なんてまだ全然わからないが
私の…俺のスタイルは、これだ。

綱に声を掛けて歩き出す。慌てたように綱は俺の後ろに続いた。人は命を喪ったらこの世界での存在意義をなくしてしまうから
だから、できれば、


『(殺したくない・・・)』


誰も気づかないだろう
否、気づかないで欲しいものだ
俺の刀の刃がつぶれていることを





多くの屍の上に立つ。私はなんだというんだろう。
骸が転がる。でも、ソレは私がやったんじゃない…俺の刃は使えない

打った感触はあっただが、人を斬った感触は、なかった。

人が、人を殺す…この世では当たり前の理なのに…「俺」は…それすら…護れない…

こんな感情は、もう持っていたらいけない。
俺は、もう武将。生きるためには…殺さなくちゃ…


『(だから、慈悲は…イラナイ…っ!)』


ぎりっと、柄を握る私は一体何を目指して歩いているんだろう。こんなの…ただの、エゴイストだ…戦場に立つと決めて、でも、それの意味を果たせてなんて、いない…。


「政宗。」
『!!』


けれど…後ろから掛けられた声に、はっとしてすぐに振り返り膝を着いた。上から苦笑いがきこえて、「顔を上げなさい、」とかけられて、ゆるりと顔を上げる。見えた光景にぎょっとした。
彼は…輝宗様は…血だらけだったから。馬から降りた輝宗様はそっと私の頬に手を滑らせて撫でる。

思わず固まってしまったが優しい声に、ゆるりと視線を惑わせた。それに、ククッと笑った輝宗様に、良い心地がしない。


「よく、無事だったな。本陣で待って居ることも出来たのに、来てくれてありがとう」
『だって…そんな…』
「そんな他人行儀はやめろ。俺たちは親子だろう?」


でも、その言葉に凄くホッとする。
親子という言葉に酷く嬉しくなって笑う。


「政宗、もうすぐ俺の馬が子を産む。お前は動物が好きだろう、きっとお前なら大切にしてくれると信じてる」


それから、その言葉に、こくんっと小さく頷いた



*-*竜の初陣*-*


《蒼毛ですね・・・綺麗だ・・・》
(だろう! 竺丸とはこんな話できなくてな!)
《え?》
(いや、なんでもない)


執筆日 20130522



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