目の前には、私が守りたい大切な景色が広がっているのに、変に動悸がする。
心臓の音が速くなる全部、小十郎のせいだ。勝手に小十郎が輝宗様と約束なんて…するから…


『(Ha・・私らしくねぇか・・・っ)』


でも、こんなに考えるのは私らしくない。Understand!(理解している!)
俺は独眼の武将だ。だけど、ここじゃぁ、ただの梵天丸だから…


『・・・っ』


大好きな景色が不安で、温かいお日様が怖い。照らさないでほしい。私は暗い雨に輝き駆ける光になるのだ。


「政宗?」
『っ!!』


意識をそらすように景色を眺めていたのだが、かけられた声に息を呑んだ。今まで以上に心臓がなって、いき過ぎて痛い。コワイ…だって…また拒絶されたら…


『お、ひさしゅう、ござります。伊達…輝宗様。』


吐き出した言葉は弱弱しく震えていた。振り返っても、顔が上げられない。見れない。見られない。きっと、俺は大切な娘を奪った化け物だ。元服して、俺は縁を切って…今はただの他人。

つまりは、斬り殺されたって、おかしくはない。だから…

ぎゅぅっと下で手を握る、カタカタと手が震えているのが目に見えてしまって、あぁ、なんて情け無い…。


「あぁ、久しぶりだな。此処に来れば「娘」に会えると聞いたのだが?」
『ッ』
「政宗、お前はそれを分かっていて、来てくれたんだろう?」


「娘」たった一言のその言葉に体が震える。

心が冷えて、痛む。それ以上聞きたくないのに、何時の間に、近寄ったのだろうが。するりっと頬を撫でる手、とても綺麗とはいえない。かさかさしていて、少し痛いが、でも…

ずっとずっと・・・

きゅぅっと左目を閉じる。震えているのは、私だけじゃない。目を閉じれば、他の感覚が研ぎ澄まされてすぐにわかった。輝宗様の手も…震えていた。

するりっと、優しく頬が撫でられる。
そのままだんだんとその手は上にいって、少しだけ長い右側の前髪を耳に掛けた

それから


『っ!!!』


するっと、目を覆っているその紐が落ちた。思わず、その手を払い飛ばそうとしたが、その前にそっと輝宗様の手がもう無いその空間に重ねられる。


「政宗…」
『は、い…』
「無理に自分を殺すな、泣けば良い、私はお前の「父親」だ。」


ゆるり、左目を開けば優しく微笑んでいたその人。その表情は昔…「私」を映していた「父上」の表情だった

だんだんと、視界がかすんで行く。
輝宗様が……父上が…私を…


「おいで、梵天丸」
『っく…梵天丸はもう童ではございませぬ…っ』
「あぁ、そうだな…だが、私にとってはいつまでも子供だよ。」


優しく、抱きしめられる。ぎゅぅっと思わずしがみついてしまったが許されるだろうか…初めてだ、初めてだ


「お前が…男として元服をすると言った日。あぁ、俺はお前にそこまで辛い選択を迫ってしまったのだと思った。お前には女子としての幸せを奪ってしまったのだと…こんな決断をさせたのかと…はは、俺は最低だな。」


優しく、抱きしめられてそのままゆっくりと背を撫でられる。静かに、なみだが流れた。
今までたまっていた涙が、一気に流れ落ちて行く感じだ。
なんだろう、何でだろう・・・なんで・・・


「梵天丸は…あの子は病で死んだのだったな。」
『っはい。』
「なら、俺の目の前に居るお前は?」
『貴方さまにお仕えする一兵にございまするっ』


少し離れて、右目に再び指が這う。そして、それからそういわれた。
「死んだ」それは私が元服する前に、言ったものだ。


「そうか、そしたら・・・伊達政宗」
『なん、でしょう』
「俺の養子にならないか。いや、お前は主には逆らえないな、私の元に来い、政宗。」



世界がまた、回り始める。

竜は再び


(政宗さま、どうでしたか?)《もういい死ねる》(政宗さま!?)


執筆日 20130517



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