数え歳・・・というのは結構便利なものだと思う。生まれた日ではないが、年をこえれば年齢が一つ重なる。

小十郎に頼んで、輝宗様との面会のお目通りの許可を取ってもらった。実父だが、彼から見れば俺は化け物と言われるだろう。あの日、あの人に言われたように。私は「梵天丸」を奪った化け物だ。

失ったものは元には戻らない。小十郎は置いてきた。

スッと、障子の前に座る。勿論、少し離れて。


『輝宗様。 梵天丸にござりまする。』


俺の格好は、袴。とても領主に会う格好じゃないだろう。

此処にくるまでも、ひそひそと話されていたし・・・女として、はしたないとでも思っているんだろうな。女として過ごしていないから正直構わないけれど・・・。


「久しいな、梵天丸。」


入っていいぞ。


障子をはさんだ親子の会話とは思えない。許可をいただいたところであわせる顔なんて無い。たぶん、時あたりが女中に泣きついて、その女中の噂を輝宗様は知っているだろう。俺が男の真似事をしていると。

私は真似事と考えるほど簡単に考えているつもりはないが周りから見ればただのお遊びかもしれない。


『入るつもりは、ありませぬ。俺は、輝宗様にあわせる顔など持ち合わせておりませぬゆえ。ただ、一つわがままを聞いて欲しく参上したしだい。』


でも、俺にとっては真剣なこと。誰にも譲れない、この心を、きっとこの男は分かってくれるだろう。聞いてくれなければ、自分で力を示すだけだ。反逆とみなされ、殺されるかもしれないが。
私にとって、これは賭けだ。


「・・・なんだい?」


けれど、返されたのは少なくとも、私の話を聞いてくれる言葉だった。思わず数秒固まってしまったが、ふわりっと軽く風が吹いて、ハッとして息を吸い込む。


『俺の…梵天丸の、元服を季節が1巡りする前に、行っていただきたい。』


言った。言い切った。これは、私が「仮」に面倒を見てくれる期間を終わらせるという覚悟でもある。

しゃっと、障子が開けられる。視線は下のまま、


「・・・梵天丸?」


驚きにまみれたその声に、あぁ、輝宗様は本当に何も知らなかったんだと思った。きっと、私が外に出て、攫われかけたことも知らないのだろう。けれど、スッと、頭を下げる。


あの日のように、息を呑む音が聞こえる。今度は、輝宗様が部屋に居て、私が外に居るのだが・・・・


『女の梵天丸は死にました。あの日、病に打ち勝てずに、死にました。』
「梵天丸・・・お前・・・」
『今、此処で息をして、生きて、あなたの前に居る梵は、己を捨て、罪を捨て絆を捨て、そして化け物にございまする。』
「・・・」
『後生でございまする、輝宗様。」


深く、深く、頭を下げる。
屈辱だとは思わない。これは仕方の無いことだから。

それに、輝宗様はやっと化け物が手元を離れると、ホッとするだろう。今は竺丸が…ちゃんと跡取りだって居る。
だったら俺が元服して出ていったって構いやしない。あぁ、小十郎とは別れることになっちゃうな・・・小十郎は怒るだろうか・・


「男として、生きるんだな。」
『・・・どのようにとらえてもらっても構いません』


これは、俺の覚悟



執筆日 20130410



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