「ひっく・・なんで、なんで・・・?」


目の前で大粒の涙を流す従兄弟に頭を抱えたくなる。いや、実際頭が痛くて仕方がない。小十郎との修行中だったというのに。

やっとのことで婆娑羅を使えるようになってきたにもかかわらず、俺に飛びついてきたため、修行は中止。そして突然泣き出すという始末だった。

小十郎が気をきかせて甘味を持ってきたが意味は皆無。俺に抱きついたまま、ぎゅぅっと肩に首を埋めて泣いている。むしろわめいている。助けろ、という視線を送っても、小十郎は総無視。おい、お前俺の従者だろうが。


『なぁ、時。せめて泣いてる理由だけでも教えてくんねぇか?』
「だ、って、だって、梵が、梵が・・・っ」
『あぁ、俺が?』
「っく、へんだよぉ」



今の言葉にはさすがに傷ついた。変?え、これが素だっていうのに、変…だと?
ちょっとイラッとしたが、時こと「時宗丸。」俺の一つ下の従兄弟。

俺が病で化け物と呼ばれるようになってからそばに来た子だ。怖からずに、ずっと俺のそばで笑っていた。


「時宗丸。」
「こ、じゅうろだって思うだろ!!梵は女の子だぞ! なのに、なのにっ」
『時。』
「っ!」
『俺は、女って生き物だが、女じゃない。』


小十郎が、とがめるように時を呼んだ。それに、時は叫ぶ。

あぁ、そうだよな。
変に納得してしまったのは、まだつい最近のことのようにおもったから。この子は…時は、私の髪をよく弄って遊んでいた。よほど、気に入ってたんだろう。
絹のようなこの髪を。それだけじゃない。多分・・・時にとって、私はお姫様。
まぁ、実際会ったときからおとなしかったからな。

だから、余計、女だと意識するのだろう。だが、違う。


「梵・・・っ」
『元服したら、俺は輝宗様を護る一兵になって、あの方を越えて奥州を統べる。』
「っ」
『だから、女じゃいけないんだ。』


俺は、ずっと私では居られないから。だから、俺は私という道具になる前に、私を捨てた。
唯一となるために。

優しく頭を撫でれば、驚いたように目を見開いて、悔しそうに唇をかみしめた。



執筆日 20130408



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