『っは……い、た……』
雨のせいでぬかるんだ土。私の体は泥だらけ。
それでも今は気にしてられなくて、急いで立ち上がって、走り出す。喉が痛くて肺が苦しい。酷く息がしづらい。でもこの足を止めるわけには行かなかった
『、っ………こじゅ…』
口に出してしまった、あの男の名前に苦笑い。私の世界は、小さくて狭いからあの男の名前しか出てこなかったんだろ
だって助けてくれそうなのは、あの男しかいないから、時宗丸は今いないし喜多はもともと女性だ。でもだれも助けてくれるわけがないだろう
片倉小十郎
あの男は私のこと嫌っている。そうなるように私がしたのだから…。
助けてくれるわけがない。
「いたぞ!!」
『!!』
だから私には逃げる道しかないのだ。
逃げて逃げて、伊達の名前の届かない所に男達に捕まらないように逃げるしかないだ。
それが片倉小十郎のいった私の価値。
なんでこんなことになったのかは、想像つくだろ。
もう、習慣となったあの樹に登る行動
もちろん今日もそうだった。
違ったのは、そう、片倉小十郎が私の傍にこなかったということだけ、やっと飽きたのだろうと私は思った。
飽きられたのだろうと……周りの気配を確認してそっと幹に手を触れる。
立ち上がってちょっと背伸びをして、木の枝にあらかじめ隠しておいた私の愛刀を手に取った。それだけじゃない。
少しばかりの金銭と、それから旅に必要最低限なもの、といってもこれから道具は揃えなくちゃいけないから、すこしばかりではないけれど雨が降ってきそうだったから、天珠の羽が濡れないように羽織の中に入れた。
木に登ってる時点で私の格好は女の子のような着物じゃなくて男の子のような動きやすい格好だ。
それからタン、と地面を蹴って塀を越える。今まで一度も出たことなかった塀の外。しばらくは逃亡生活かななんて、私の時代で見たドラマを思い出して苦笑いした。
そこまでは良かったんだ。
とにかく身を隠そうと入った森の中。
でも、しばらくするとそこで雨が降ってきてしまった。だからなるべく影のある大きな木を探してそこで雨宿りしようと、歩いていたんだ。
雨音で気配に気付けなかった
「お嬢ちゃんどうしたんだい?」
恐怖で体が震えるっていうのはこういうことだと思った。
そこには数人の男。身なりはそこそこいい方だけれど、違う、腰には刀を差していて目は欲望に濡れていた
体中が寒さとは違う恐怖で震える。頭の中で警報が鳴り、私はそれに従って走り出した。身はぎか、それとも、人拐いか、
前者であろうと後者であろうと、私には逃げ出すしかなかった
執筆日 20130324