片倉小十郎と出会って早数週間。ずっと奴は付いてくる。まぁさすがに許可して無いから部屋の中には入ってこないけれど。


『返せよ…。』
「それは聞けませんね。」


今日は喜多が居なくて、部屋の本を全部読み終わってしまったから変えようと思っただけ。なのに、そういう時に限って見つかるのか…。朝早くに廊下を歩いていたのに、簡単に見つかるのは本当に何でだろう…。隠す気もなくため息をついた。


「・・・随分と難しい本を読むのですね?」
『Why?』
「…その南蛮の言葉もご自身でお勉強されたのでしょう?」


南蛮?っと思わず首を傾げそうになったが、この時代じゃ英語って言わない。まぁ、日ノ本は野蛮・・・とはいわれてるけど・・・ってそういうのは関係ないか


『・・構わねぇだろ?』


だけど、それはこいつに関係ないだろう。そう言ってやれば、片倉小十郎は私を困ったように見た。


「寂しくはないのですか?」


けれど、言われた言葉に、固まった。
心の中の私が悲鳴を上げる。抉られるような痛みが襲う…。顔を上げればしっかりと交わった視線。
なんで、こいつは…。


『関係あんのか!!もうそばにくんな!!You See!?』
「お断りします」
『っ命令だ!!』


狂いそうだ。こういうやつは私をかき乱す。ふざけるな。
小さい私は・・・梵天丸は居ないんだから。

本を無視して走り出した。別に困るようなものは読んでない。ただ、私だけの書庫に入られるのは嫌だけどもういい。


走って、走って、息を切らせて、ただ走った。本を持っているから、追いかけてはこれないんだろう
落としてたらぶっ殺す。
まぁ、誰にもつからないような場所を、クセで通ってきてしまったから・・・相当、壊れてきてるんだな…


『(もう誰も信じるもんか・・・)』


とくに、あんなやつ。
ああいうやつほど、同情で私を見ているんだ。これ以上・・・踏み込まれたら・・・私は・・・


『っく・・・』


ズクリと、右目が痛む。
突然のことに膝の力が抜けてドサリっと座り込んでしまった。


『大人しく…してよ…お願いだから…』


私は惨めだ。
武家に生まれたにもかかわらず・・・こんなにも弱く・・・小さい。


「まぁまぁ・・・こんなにドロだらけになって・・・」


けれど、そんな私に聞こえたのは、そんな言葉。二度と私にかけられることの無い・・・優しい言葉。


「母上、竺丸は母上に花を摘んできたのでございます!」
「まぁ・・・ありがとう竺丸。」


本当、惨めだ。泣きそうになるのを必死にこらえてフラフラと立ち上がり、足を動かしたここにいたくない。


『…あぁ、私はいつまですがるつもりだったんだろうな。』


なんで、これが浮かばなかったんだろう。
いっぱいあるじゃんか・・・

もう小さいってほど子供じゃない。馬だって乗れる。

刀も、多少なりとも使える
・・・なら・・・そう思ったら、体がちょっと軽くなった気がする。
簡単な、ことだ


『(でていっちまえばいい・・・)』


城下へ降りたことは無い。
けれど、私一人居なくなったところで、構いやしないだろう。


『(なら・・・ちょっと周りさぐらねぇとな・・・)』


さすがに・・・馬はつれていけねぇから




竜の小さな決意




執筆日 20130301



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