過去と現在


何度打っても、俺の打球はネットを越えない。肩の痛みだけが確かなもので・・・
それが酷く苦しくて、かなしくて・・・・


『っ、くそ、くそっちくしょう…っ』


ここまで来たのに、やっと、目の前にいるのに、
コートに膝をついて、悪態をつく。あぁ、惨めだ、涙で目が霞んでる。


「もう、俺には届かない。」


呟くように言われた言葉に、耳元で水の中に沈むような、そんな音が聞こえた気がした。手を握り締めたって、力ははいらなくて・・・

あぁ、本当に届かないのかと・・・
カン…カン…

大理石に響く足音。それに、キースが小さく息を呑んだのがわかる。
俺も顔を上げれば、そこには・・・


『えち、ぜん・・・っ何のマネだ・・・』


俺と同じ赤のラケットを肩に担いでいる越前が立っていた。
こちらに視線は向けていないけれど「あんたの気持ちはわかったよ」とその声は少し低く、スッと顔を上げてキースと目を合わせた。


『っまて、越前…キースは…ひぐ、っう・・・!』


やっと此処まで辿り着けたのに、奪われてなるものかと肩なんて無視して立ち上がったが、激痛が走り、押さえてひざまずく。
そうすればスッと俺の前に膝を着いた越前が自分のラケットを離して、俺のラケットをとった。


「それってちょっと違うんじゃない?悪いけど、こっからは俺がいかせてもらうよ。」


それは、まるで・・・ここからは引き継ぐと、そういってくれているようで、
自分のラケットから手を離す。変わりに、越前はそのラケットを持ってたちあがった。


「やろうか、昨日の続き。もちろん、アンタがまけるんだけどね。」
「いいだろう、相手をしてやる。」


シャンデリアが照らすそのコートで、たつ二人。
幾度かボールをコートに跳ねさせた。


「後悔するなよ」
「いいよ。」


一言言えば、ニッと口元を吊り上げて越前は笑う。
無表情のまま、キースはそのままトスを上げてサーブを打った。そして駆けだした越前はそのままその打球を打ち返し、そしてラリーが始まる。


『(ジェミニを攻略した越前はきっと大丈夫・・・でも・・・)』


ギュギュっとゴムの滑る音がして滑りながらも越前はその打球を打ち返した。けれど、瞬間キースの纏う雰囲気が変わる。


『っあれは・・・』


ふと記憶の中によみがえる、あのときのキースの後姿。
驚いたように、冷や汗をかきそして息を乱していた・・・あの表情


「はぁあああ・・・!!」


そして放たれたボールはそのまま、越前を吹き飛ばした。
後ろの鉄格子に叩きつけられて、うめき声を上げた越前はそのままどさりと崩れ落ちる。


『っ越前!!っいつのまに完成させてたの・・・キース・・・万有引力』


けれど、それはキースがその力を完全に使いこなしている・・ということだった。
あの時は不完全で・・・それで・・・あんなことがあったのに・・・
それでも、キースはこの技を・・・


「15-0」


静かに、そうコールしたキースはそれが当たり前とでも言うようで表情一つ崩しやしない。


『っ気をつけろ越前、あれはジェミニの比じゃない・・・俺のジェミニはボール大の大きさで打ち出すけど、キースの万有引力は・・・気を壁のように押し出してくる・・・っ』







俺の忠告は届かないで、再び飛ばされた越前の身体は鉄格子へと叩きつけられて、
それが・・・あのときの試合と重なって・・・

カシャンッと音を当てて転がったラケット。
そして、膝をついた越前


そんな情景、見たくなかった

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