もう届かない
城の中を越前を連れて歩く。どこもあまり明かりはついていない。
けれど、確かにキースたちはここにいる。
「ところでさ、なんでクラック抜けたわけ?」
そういう確信がある中、突然後ろをついてきていた越前がそう言った。頭の中で思い出されるのは、今まで潰してきた選手たちの姿。
『俺も何人ものプレーヤーを叩き潰してきた。それこそ、どんなプレーをしてでも…相手のプライドを崩すためなら、なんだってした。でも、あるとき…俺が潰した選手が…ボロボロになってテニスに絶望したのを見た。その罪、ってこと。』
そう、キースの人生を壊してしまったのは、俺のせいだから…
沈み行く、みずのなかで必死に手を伸ばしたけれど・・・
「…抜けたのに、何でまだリングしてるの?」
『・・・これは全部、俺のせいだから。』
左手の薬指に嵌められたリングを見る。
そう、これは俺の咎だから結局、「私」には届かなかったから
大きな扉の前。このなかに、おそらくキースはいる。
最悪・・・他の奴等も・・・
『ねぇ此処へ入ったら引き返せないよ。』
「俺はきっちり勝って帰るけどね」
けれど、越前は面白い暗い自信満々で。酷くそれが安心できた。
扉を押す。寂れた音がして、中に入る。薄暗いが、鉄格子のようになっているそこに、唯一スポットライトが当てられているテニスコート。そこに、タオルを頭からかけて、椅子に座っているキースがいる。
「本当、悪趣味・・・」
「同感だ。」
だが、その言葉を橋のところでも聞いた気がするが・・・けれど、その言葉にキースは答えた。
はっとして中を見れば、ゆるりと椅子から立ち上がるその男。そして、その後ろにつく少し小さな影
「頼もしい仲間とお出ましだな」
「・・・チビ、せっかく昨日は命拾いしたのに、何故来た。」
俺たちを見ていったその言葉に、小さく、目をそらす。けれど、越前は口元を吊り上げて、「命拾いしたのがどっちだったのか、試してみようよ」とまるで挑発するかのように言った。
いや、あきらかな挑発だろうが、壁に掛けられたラケットを手に取ったキース。
そしてコートに入って、同時に入る越前。
俺の話し、聞いてなかっただろう、と一瞬怒りそうになったが、サッと越前の前にラケットを出せば驚いたように俺を見上げた。
「シウ・・・」
『俺がやる。俺が、やらなくちゃいけない』
パーカーのチャックを下ろして、脱ぐ。
そうすれば対するのはピーターで
「お前の相手は僕だ。シウ・・血祭りに上げてやる!」
『・・・お前は眼中にないんだけどね。』
「っほざけ!!」
少し、寂しそうな目をしていたのは、気にしないでおこう。けれど、私の目的は一人。ピーター越しに交わる、キースとの視線。
静かに目を閉じ、開いて・・そして構えた。
掴んで、俺の手を・・・どうか・・・どうか・・・私の手を掴んで・・・ただソレだけを祈って、
だけど、その前に、お前のこの小さなナイトをつぶさないとって、そう思うんだ。
俺が、ピーターにリアルテニスを教えてしまったようなものだったから。
腹部に当たった衝撃。
それは俺のジェミニと同じで、気の放出が早いと油断していた。
『っうっあ!!』
そのまま、固いボールにあたる。ドサリッとその場に倒れれば、手から離れて滑っていったラケット。
「ふふ、くくくっわかった?僕は双子じゃなくて三つ子を打ったんだ・・・キース直伝のさぁ・・・」
そんな俺をあざ笑うかのように、言ったピーター。ぐっと腕に力を入れて、起き上がる。
そうすれば目の前へと駆け寄ってきた越前が俺へと差し出したラケット。それをうけとって、前を見据えた
「立ち上がってくんじゃねぇよ!!」
少し、それが悲鳴に近いんじゃないかと思ったのは、この場所が酷く反響するからか。再び上げられたトスに目を細めた。
立ち上がった瞬間、肩に当てられたボール。衝撃で飛ばされるラケット。くくっと笑い始め、結局声を上げえて笑い始めた。
「ゲームクラック・・・ピーター!っふふ、あははははははははっ!!」
こいつも、ただ、純粋にテニスを楽しんでいた仲間だったのに…
すべて、ゆがみのせいだろうな…
だから・・・
『っ俺は、まだやれる…それに…俺を倒せるのは・・・キース・・・だけだ・・・』
だから私はまだ、終われない・・・。椅子に座して、こちらを見るキースと目が会って、微笑みかける。
どうせ、届かないけれど、絶対に届けてみせると…
「っお前のそういうところが、反吐が出るほど嫌いなんだよ!」
けれど言われた言葉に少し、お仕置きが必要だと思う。小さく息を吐いて、クッと手に持っているボールに気を込める。けれど、普通にではない。
双子打ちは通用しない。そんなこと、理解している。
だから。
「いい加減気付けよ!僕はお前を越えたって!!」
もう一度、気をためてそして俺の打球を打ち返そうとしたのだろう。
けれどその前に、俺の打球から放たれる4つの気。
はっとしたらしいピーターだが、もう遅い。
気はすべてピーターの身体にあたり、本物のそれはピーターのラケットを弾き飛ばす。
「いつつ・・・ご・・・」
痛む肩を押さえて、笑ってやった
『誰が、何時、誰を越えたって?』
必死に弁解をし始めるピーター
けれど、だ・・・
ピーターの肩を掴み、そして後ろへと倒した。
小さく声を上げて後ろへと倒れたピーターに越前が小さく驚きの声を上げただけど・・・こんなにボロボロになっても・・・キースが私の前に出てきてくれたことが、嬉しくて・・・
『っやっと戦えるな、キース』
「やってみろ。」
けれど、かけた言葉に掛けられたのは酷く冷たい言葉だった
おそらく、わかっているんだろうな・・・
だが、ここまできて… ここまできて…
『(諦めたくはない・・・)』
構えて、それからトスを上げた
もう届かない
けれど、その打球はネットを越えず・・・
ただ・・・俺のコートを転がっただけで・・・
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