全てが終わった日
空中を舞い、そしてキースのコートに決まった越前のスマッシュ。
あの万有引力を、返した。
確かに、ジェミニはラケットを一度そらしてそして本物を打つ。だがキースの万有引力は壁が押し出てくる、という考えだった・・・
それを越前は一度身をかがめ、壁をやり過ごしてからそれを打ち返し、もう一度うとうとも同じように回避して打ち返して決めた。
風によって曲がった帽子を直しながら口元を吊り上げて「ちょろいね」と笑い構え直す越前はさっそく普通の中学生ではないと感じる
けれどだ、キースの目の色が変わった。
それは、本当にいらだっているとき・・・というよりも・・・選手を本気で潰すときのそれに、よく似ていて・・・
上げたトスは、まるで空気を吸い込むかのように周りを吸収し、そして髪を揺らす。
「はぁああ!!」
そして、一点に集められたソレをキースは打ち込んできた。
否、打ち込む、というよりは天井へ向かって打ち放ったといったほうが近いかもしれない。天井へぶつかった気の塊は、ぶら下がっているシャンデリアを大きく揺らした。
急降下してくる気の塊は、まっすぐ越前の頭上へと落ち・・・・
「地に這い蹲れ!!」
キースの叫びにも似たソレが響く。
地面が凹み、そして越前が体がそこへとめり込んだ
『っ越前!!!』
ドシャリ、と地面に落ちた越前は痛みに耐えるように手を握り、そしてうめいた。小さな中学生の体には酷く重すぎる衝撃だろう。
あぁ、なんでだよ・・・
『もう止めてキース!!こんな勝ち方に、意味なんてあるの!っ「私たち」のテニスは、こんなものじゃなかったはずでしょ!!』
「俺たちのテニス?」
『あの頃は、違ったっ あの頃は…っ』
なんども夢に見る。
青い空のしたで、共に戦ったあの日を、悪夢に変わったあの試合を、
飛び上がり、宙でスマッシュを決めたキース
キースの打ち込んだボールはセンターラインをとおり、そしてコートを駆け抜けていった
『っやったね、キース!』
パシンっと手を合わせて、笑いあう。
同じユニフォームをきて、コートの中で公式戦で私たちは戦っていた。
「一気に決めるぜ、シウ」
『うんっこれで決勝進出だね』
手首同士を合わせて、そしてキースの言葉に頷いた。だから、後ろで何かを企んでいる奴等に気がつかなかった
次のサーブはキースから。あの当時の私は完璧なボレーヤーでネット際のプレーが多かった。打ち込んだ後のリターンもキースが打ち、それを相手がボレーで返そうとする。
距離は、おそらく・・・
『キース!』
ネット際だと、そう思ってキースへと声をかけた。けれど、一瞬でも視界から相手を外したのが、いけなかったんだ。
パシュ
インパクト音が、違った。
はっとして視線を戻したが遅く、私に向かって躊躇なく打ち込まれたボール。それは私に左肩を打ちぬき、その反動で、コートに転がった
『っう・・・ぐ・・・っ!』
「シウ!!」
遅れて来る鈍痛に、肩を押さえてうめいてしまったが、大丈夫だと、笑って見せる。
ここで勝てば、キースと決勝にいくことができる。それだけが私が今なさねばならないことだった。
その後も、まっすぐ相手の打球は私だけを狙ってくる
膝を打たれ、肩を打たれ、腹を打たれ・・・仕舞いには手を打たれてラケットが落ちた。
痛みに耐え切れなくなって、コートに崩れ落ちれば、それを好機とみた相手がまっすぐに打ち込んでくる。
けれどその前にキースは私の前に回り・・・
「た、担架だ!!担架をもってこい!!」
初めて・・・万有引力をつかった瞬間だった。
あの試合・・・先にラフプレーをした相手はテニス名門校という肩書きだけで問題とはされないで・・・逆に、その名門校の選手に怪我をさせた、というキースだけが罪を問われた、
今まで頑張ってきたのにテニス部を除籍されて、スクールも受け入れてもらえなかった。テニス界から・・・追放されて・・・
『キース!!』
夕日色に染まった河へ、後ろから身を投げたキース。慌てて追うように飛び込んでみれば、キースはなんの抵抗もせずに、ただ、底へと沈んでいって・・・
けれど、テニスは棄てられなかったんだ。
「私」は、「俺」になって、キースはクラックのメンバーを集めて・・・
『ねぇ、キース・・・本当は… っ』
全てが終った日
《本当は、もう一度、テニスが・・・ 》
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