夕日の中の思い出

時間がたつのは早い。

すでに夕暮れ、あの中学生達と分かれてすでに何時間もたっている。

向かうのは、ただ一箇所。駅を出て、それから見慣れた町並みを歩き、それから海へと出た。すでに準備しておいたボートに乗り、それからエンジンをかける。

モーターが回りだし、そしてゆっくりと加速して行くが、後ろから一つの足音。
そして、小さく声が聞こえて、「その人物」がボートの空いている部分に着地してきた。

いきなり重力がかかったことにより、バシャンっと水しぶきが上がり、ボートが揺れる。多少水がかかりそうになり、それをかわそうと顔を背けていたが、前を見れば、「ちーっす」とあの、帽子の少年だった
のんきに挨拶しているが・・・え?


『っなにやってんのよ、降りなさい!』


これからいくのは、キースたちのところでいうなれば敵の本拠地。

そんなところに連れて行けるわけないと…そう言ったが、少年はきょとんとして、ボートの外に視線を向けて「水の上ッスけど」とそう言った。…こいつ、図ったな。

一つため息を零して視線を少年・・・いや、越前リョーマから外す。


『勝手にしろ。』


もう、こういうしかない。こういうところが、ちょっとだけピーターに似ているから俺はこの少年に甘くなってしまうんだろうか。
だって、いまさら水の中に突き落すわけにも行かない。だから、そう言ったが・・・

ちらりと越前をみればグッとガッツポーズをしていた。・・・確信犯め・・・






風を受けながら船を進めていく。
越前が立ったまま帽子を押さえてものめずらしいのか周りを見渡しているが、前から船が来るのが見えた


『座れ、引き波が来る。』
「え?」


だから、警告してやったのに、行動が遅れた。きょとんっと俺を振り返り、そして船の風圧でとんだ帽子を追いかけてバランスを崩す。いまさらおちるのかよ・・・っ

手を伸ばしてジャージを掴む。その瞬間、ズキリっと右肩に走る激痛。
けれど悟られないようにすぐに表情を戻し、越前を座らせた。


『だから言っただろ? 座れって』
「・・・ごめん・・・」


少し咎めれば帽子を被りなおしつつ、小さくあやまりそれから座りなおした。それから、ただ互いに前を見据えていたが「アンタさ、本当は体ボロボロだよね、」なんて、いきなり彼はそう言った。それに、小さく驚くが、さっきのでばれてしまったか、


「打ち合ってたときから思ってるんだけどね、あちこち怪我してるんじゃないの?」


いや、そのずっとまえだった。越前に言われて思い出すのは、あの夜。
リアルテニスのボールで肩を打たれ、その後コンクリートの上に受身も出来ずにころがった。その前にも転んだり、なんだりしていたから、まぁ、そんなことは関係ないんだけど


『怪我をした俺じゃぁ、キースにたちうちできないって?それでついてきたの?アンタも大層おせっかいじゃない』
「・・・桃先輩の落とし前が残ってるんだよね。それに・・・昨日キースって人、俺に命拾いしたなって言ってたんだ。悪いけど、命拾いしたのはあっちっだってこと、証明しなくちゃね。」


けれど、そういえば、そう返される。
変なところ・・・意地っ張りなんだと、小さく笑ってしまう


「ついでにきくけどさ、さっき俺がサーブ打ったとき、なんでうちかえさなかったわけ?」
『・・似てた、大切なヒトがサーブを打つ姿に、』
「・・・それってキースのこと?」


本当、なんでこんなにこの少年は勘が鋭いんだかわからない。視線を下に向けて、苦笑いしてしまう。あまり過去として語るのは好きではないのだけれど・・・


『俺は、小さい頃…父親の都合でイギリスに来た。言葉もわからなくて…いつも一人ぼっちで、周りから浮いていた私に・・・初めて声を掛けてくれて…テニスを教えてくれた。 それが、キースだった。二人でダブルスを組んでからは、無敵だった。』


そう、ミクスドでも…男子ダブルスでも…キースと一緒にでた試合は、本当に負けなしだった。








ボールをトスしたキース。

そして、打ち込んだのはバウンドした後真上に飛ぶツイストサーブ。
それに慌てた相手のボールは甘く、それをボレーで返せば打ち上げられたボール。

それが罠とも知らずに・・・

飛び上がったキース。
その表情は輝いていた。

まだ、知らなかった
それが最後の試合になるなんて

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