殻を破って

「忘れたな」
『・・・っ』


私の言葉に視線をそらし、言ったキース
ギリギリと、手を握り締めた。


『私を庇ったせいで、キースが堕ちた・・・お前を、独りにしたくなくて俺は一緒に堕ちると決めたんだ。でも、それは違った!!ねぇ、キース・・・やり直そう?』
「何をだ。」


だから、そこから引っ張り上げたかったんだ。
なのに・・・私に背を向けたまま、そう・・・キースは言って・・・・


「何を、やり直す」


その言葉におそらく、意味はない。
いわれたこちらが・・・ぞっとするほど、その声が冷たかった


「ねぇ、アンタ」



けれど、さっきまで地面に倒れていた越前が、しゃんとした声を発して・・・
そして立ち上がる。帽子を被りなおし、まっすぐとキースを見ている


「それって、いじけてるだけなんじゃないの。」


おそらく、越前に悪気はないんだろう。
だが、キースはその言葉に静かに越前を睨む。

ぱしっと右手から左手へとラケットを持ち替えた越前。
あいつも、サウスポーだったのか、と心の中で小さく納得した


「いくよ」
「こりない・・・小僧だ」


そして、越前から始まるラリー。
リターンエースで万有引力を出したキースだったけれど・・・


「ま、まさか・・・」


天井に当たったそれは、「それ」と同じように、キースへと…おちなかった
軽い音と共に、キースの後ろに落ちた、気を含まないボール。


「15-0」


そう言って肩にラケットを担いで、笑った
あぁ、まるで御伽噺に出てくるようなヒーローだと・・・

そうか・・おそらく越前は強いわけじゃなく・・・
テニスを楽しんでるんだ、


ただまっすぐ前を見ている越前は・・・ただ・・・テニスが好きなだけで・・・それから、二人とも万有引力を繰り出し天井へとぶつける。けれど、二人の力は相当すさまじいものだったらしい。

鈍い破裂音が聞こえた気がした。天井に走る・・ヒビ、
そしてそれは更なる亀裂を生んで煙を巻き起こし


「っ!」
『越前!!』


光を発していたそれが、傾き、そのまま真下にいる越前へとおちて行く。
キースも・・・苦しそうな顔をしたけれど。複数のインパクト音。
そして飛んでいったのは見慣れた普通のボール。

おちてきたシャンデリアを的確に打った

軌道が変わり、越前の真上からコートの左側へと流れたそれは鈍い音をたてて大理石の上におちて壊れるおとがする。

煙が上がるが・・・晴れれば空けた天井から月と星の明かりが差し込んで室内を明るく照らした。まるで、その光景は・・・

深海の岩場からから、海面を見上げる時の・・・光の差し込み方に似ていて・・・
ボールの飛んできた方向を見れば7人の中学生が立っていて、


「先輩・・・」


それをみた、越前が呟くようにそう言った。


「ま、まさか貴様等!あいつら全員を!!」


それは、俺が朝に会った奴等で・・・まぁ、一人は知らない奴だけど・・・でも・・・クラックのメンバーを倒して、此処まで来たんだろう


「仲間を、助けに来たって訳か・・・」


けれど、ぎりぎりとボールを握り締めるキースの手。
きっと・・・


「友情か・・・仲間との絆という奴か・・・そんなのに、意味はない。」


学校や、スクールでは俺たちのところへ着てくれないか!なんていわれてたのに、
あの事件の後には、みんな手をひっくり返したように離れていった。

だから・・・だとおもう・・・
それでも・・・私はそばにいたいと思ったのに・・・


そして、再び始まるラリー、



ただ、お前は気がついていないんだ。
お前を慕っているのは・・・少なくないってこと・・・


「うらぁああ!!」
『っ越前、お前!!』


けれど、越前が打ち出したのは、気を一転に集めた・・・それ・・・
最初は普通だったけれど・・・

前ではなく・・・後ろに気を放出する・・・


『万有引力・・・?』


あぁ、そうか・・
傷つけることにではなく、スピードを上げる為に仕上げたそれか・・・






「ねぇあんた、本気出してる?」


越前の言葉につぅっとキースの額から顎に滑っておちた汗。
けれど、フッと笑うと、右手から左手・・・利き手へと持ち手を変えたキース

あぁ・・・利き手を使うなんて・・・


あの頃と変わらない、少年みたいな、きらきらした、

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