▼ 少しずつ
振り上げられるのは純白の槍。
流れるようなその動きに道場に来ていたものは皆、何をしていたのかも忘れたかのように彼女に魅入る。
対するは紅き若子
しかし、その体は身の丈よりも長い朱の槍に振り回されついには転んでしまった。
『ふふ、まだまだね、弁丸。』
「っく…」
『もともと、体が小さいのに無理に私と同じものを持とうとしなくてもいいのよ?』
くすくすと、微笑む姿はまるで慈母のようだが本人はそれどころではない。
すぐに立ち上がった弁丸はキッと朱音をにらみ、槍を突きつける。
けれど、それに驚きもせずくつくつと笑ってとんっと後ろに軽く飛べば、再び槍を構える。
「覚悟!」
そして、再び始まる斬りあい、
もちろん、刃はつぶしてあるが打ち所が悪ければもちろん大けがにつながる。
上手くかわしているが、弁丸はやはり槍の重さに振り回されてしまう。
ちらり、と一瞬だけ道場の窓から見えた夕日色
あぁ、時間なのね?とふぅっと息を吐いて槍を振り回し突然攻撃の基準が変わった弁丸は目を見開いてあわててかわそうとするが
『白蓮』
「ぅわ!!」
ズルリと、
突然弁丸の足元が凍りいきなりのことに足を滑らせた。
どしゃっと崩れ落ちる弁丸ののど元にまっすぐ雪のような切っ先が向けられる
それは槍の先ではなく彼女の戦装束に隠された暗器。
弁丸の眼に映るのはたった一人の姉のはずなのだが…
「あ、…あ…っ」
弁丸を上から抑え込む朱音の眼は、ただ、虚無。
見たこともないその姿に乾いた声を漏らし弁丸はガタガタと震えた
すっとその上からどけば、息を吐きそして結っていた髪をほどいた。
『一回、死んだわよ、』
「っあ、あねうえ…っ」
『早く佐助のところに行きなさい。』
そして、そう、言い放つ。
そこに先ほどまでの舞のような美しさも、兄弟の睦まじさもない。
ただ、厳しき師と未熟な弟子というだけ。
身をひるがえしそして道場を出たその後ろ姿はひどく頼もしかったが…
知らないだろう、
誰にも見えないところで、カノジョが苦しんでいることを
執筆日 20130905
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