▼ まだ小さい
*-*Side Benmaru*-*
「姉上?」
障子をあけ、中を確認するがそこは誰もいなかった。
人の気配もしない。
おかしい、約束したのだ。
この年になって添い寝とはおかしいかもしれないが、いつか…姉上は消えてしまいそうで…
だから、姉上がこの屋敷にいる間はずっとそばに居たいと…思うのだ。
「隠れ鬼は…あまり好かぬ…」
ふっと小さなころを思い出してしまう。
母上が死んですぐのことだ。
ひどい雨の日だった。
元々、俺を産んだせいで体を病んだ母上。
死んだのは俺のせいだとさんざん言われ、
周りの目が怖くて、誰にも会いたくなくて一人物置に隠れていた。
誰も探しに来ない、
それが酷く心細くて…
『見つけた、弁丸』
「…?」
けれど、かけられた声と光。
そしてするりとほほをなでた俺とは対照的な冷たい手。
驚いて顔を上げれば、年上だろう、女の人が笑んでいた。
『かくれんぼ、上手なのね。』
「俺、は…」
そんなつもりはない、と言いたかった。
だが、抱きしめられて固まる。
優しい、花の香りがいっぱいに広がった。
『私はね、貴女の母上に救われたの。
血はつながらないけれど、貴方は私の弟・・・』
初めまして、大切な私の家族。
そう、紡がれた声に、本当の子供のように大声で泣いてその腕にすがった。
それから姉上は俺にとってかけがえのない人なのだ。
『弁丸?』
「っ姉上!」
『あら、やだ、 先に来てたのね。』
だから、消えてほしくない。
ずっとそばにいてほしいのだ。
今まで守られていた分、姉上を守りたい
もうすぐ俺も元服する。
そうしたら姉上にはここでゆっくりと過ごしてほしい。
戦に行くときには「いってらっしゃい」と
帰ってきたときには「おかえり」と笑んでほしい。
ただ、それだけ
執筆日 20130902
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