貴女がいた日常 | ナノ


▼ 理由


真田の母上は弁丸を生んですぐに亡くなった。

かくいう私も捨て子だから実の母の顔なんて覚えちゃいないけれど…


拾われた里で一人前になりそして買われたのは真田の母上の護衛。
けれど、男ではなく女の子を生みたかったとさみしげにわらったあの人は私に愛をくれた。

たしか、一人目も男の子だという。
あったことはないが。

でも…おそらく、私に愛をくれたのは死期を悟っていたからかもしれない…



「朱音、私が死んだあと…あの子をお願いね。」



私にあの子を託して、逝ってしまった。

守る、それは私の役目。
武田に仕えしのち、あの子を守るために各地から忍を集め、そして結成したのは真田十勇士。

みんな癖があるけれど、そんなの私がうまくまとめればいい話。




『っごほ…』



ただ、私の命がいつまでもつかと…
肺が苦しく、走っているわけでも脅威があるわけでもないのに動悸がする。

幾度か咳き込めば口に鉄の味が広がってイラッとした


けれど、瞬間
何かの気配が頭上を通り、そしてシュタリと舞い降りる。



「朱音さん…っ」



それは、夕日色。

おそらく弁丸を任せてきたのだろう彼は忍装束で
その手には、竹の水筒



『どうしたの、佐助。』

「っこれ、薬草を煎じたんだ。」

『…』

「死なないでよ、弁丸様にとってあなたは必要なんだ。」

『佐助。』

「やだ、いうことなんてきかない!」



忍は道具じゃない。

それは私が決めた十勇士の掟

まぁ中にはまだ完ぺきに戻り切れていない子はいるけれど、


でも…


やんわりとその水筒を押し返す。
そうすれば泣きそうな顔をした



『私は病ではないのよ、佐助。』

「っ」 

『私は、もともとこういう身体なの。』



これは私の咎。
なによりも、強くあるために守るために必要なこと。


私の持つ氷の婆娑羅は体を年々むしばんでいく
いつか、私を殺すだろう。


それでも、あの子を守れるのなら




『それに、そのために佐助をここに呼んでいるんでしょう?』

「それ、は…」

『最初はいつか殺してやるって喚いてたのにね。』



あの子は、もうすぐ元服する。
忍のままじゃ…そばにいれるけど、そばにいれない



だから、



『私が死んだら、よろしくね。』



私もあの子に一歩近づくために忍という肩書はひどく邪魔で



執筆日 20130831


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