▼ 華は、散り
「姉上、姉上…っ!!」
悲痛な叫びが戦場に響く、
泣き叫ぶ一人の武将に我こそはと群がる敵兵。
しかし、だんだんと面積を広げていく氷の園に近づけない。
そして、二人を守るように闘うのは彼女とともに戦い、彼女の部下であった9人の忍。
『あーぁ…弁丸との、約束…やぶっちゃう、ね』
「あねうえ…っ」
『ごめん、ね…もう、弁丸じゃない、わよね…』
その中央で…まるで眠りに落ちるように言葉を紡ぐのは元忍
そして、涙を流すのはその主。
ぽろぽろと止まらない涙をそのままに、戦場であることも忘れただ、その人を抱きしめて
「許さぬっ絶対にっ死ぬことなど許さぬ!」
『ゆき、むら…』
「いやだ、眠らないでっ
姉上!!」
だんだんと落ちていくその瞼。
空を映していた瞳が、閉じられていく。
『大好き、だい、すきよ。
大切な私の、弟…』
血に濡れたその手がするりと幸村のほほに這わされる。
その手にすがるように、幸村は頬の手を握った。
『だから…わたしのぶん、まで…しあわせに、な・・・』
「姉、うえ…」
滑り落ちた手。
握りしめたが、握り返してくれることは二度とない。
眠ったように息を引き取ったかの忍
その亡骸を抱きしめて、武将は声を上げて泣いた。
夕日色の忍びはのちに語る。
彼女が死したその場所は、今も氷の世界に閉じ込められていると
執筆日 20131103
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