雨が降っている。
歓声がぴたりとやんだ。あっけにとられる声がわずかに聞こえたが関係ない
「たった一人でどうするつもりだい、姫さん。」
『姫さん呼ぶな、馬鹿猿。本能寺一択だろうが。』
突然背後から聞こえたとある単語にイラッとしたが、会えてなのかもしれない。
その挑発に乗りながら振り返る。
雨で髪が張り付くが、そんなに気にはならない。
大丈夫だ。
『今度こそ、この俺が直々に魔王の首とらせていただく』
口元を上げて、いう。
そうすればやっぱりあわあわとしだす良直たちだが、身をひるがえして歩きだせば追いかけてくる。
それも計算済みだ。
刀を抜き、正直なぜこの時代にあるんだって思っていたリーゼントの先端を斬り落とす。
腰を抜かした彼を文七郎が支えていた。
『これはアンタたちと楽しむパーリィじゃないのよ、』
「政宗殿!?」とさっきまでしょげていた真田が飛んできて、そして私と彼らの間に飛んできて両の手を広げた。
その眼にはいつもの炎がわずかに揺らめいている
やはり、闘いたい気持ちもある。だが、不安のほうが明らかに強いんだろう。
「何をするのでござる。この者たちは貴殿のために貴殿と天下を取るまでは死ねぬと大仏殿の下敷きになりながら生き延びた、得難き家臣でござるぞ!」
『えぇ、だからこそよ。ここで死ぬには惜しすぎる。でもね、あんたにそれを言う資格ある?簡単に死んでしまったあんたが』
彼の首元に揺れた六文銭が、目障りだ。
掴み、引き寄せれば、近くなった距離に真田の戸惑いの瞳が揺れる。
『これもただのお飾り。地獄の川の渡り賃。初めて真田、あんたを見た時にそう思った。あの時川で息をしてないあんたを見た時、使わせてなるものかとは思ったけど、助けたのは間違いだったかもね、この駄犬。』
つきはなして、身をひるがえす。
この先は私一人だ。
それでいい。
『(だれも喪わず、だれも傷つけず、私が守る)』
雨は降りやまない。それでも、構わない。
嫌いな雨だからこそ、喪うことが多かった雨だからこそ、私の力になる。
20160905