*-*Yukimura Side*-*
「筆頭」と去りゆく政宗殿に向かって駆け寄ろうとした彼らを止めたのは片倉殿であった。
六文銭を握られ、近くなった顔。
彼女の瞳にはただ強い想いしか宿っていなかった。お館様のような強い強い光。
某にはおそらく宿っていない、光。
「政宗様の決められたことだ。織田は武士の戦とは程遠いゲスな命の取り合いを仕掛けてきやがった。武将たちの誇りと尊厳をことごとく踏みに
じりやがったあいつらを、織田信長とその手先どもを、もはや一人の武将として許せないんだ。」
「だからって一人で」
確かに、政宗殿は許せないだろう。誰よりも人の命をおもんじる方だ。
首にかかる六文銭は、確かに真田が掲げる地獄の川の渡り賃。某よりもずっとずっと政宗殿のほうがわかっている。
お館様のそばで溺れてしまった某を助けてくれたのは、政宗殿だったと、佐助から聞いた。
けれど、政宗殿はわからないのだ。
もしかしたら、今離れたら一生目が覚めないかもしれないそんなおそれすらあるのに、なぜ、離れられるというのか…。
「お前はどうなんだ真田幸村。」
「無論某とて思いは同じ、されど某にはお館様がすべてなのでござる!お館様のおられぬ明日なぞ某にとっては無意味。今おそばを離れその間に万一のこ
とがあれば…!」
「甲斐の虎を見くびるんじゃねぇ」
片倉殿が静かにお館様の寝ているそこに近づく。
そして、静かに「御無礼いたす」と言葉をつげると、お館様にかけられていた羽織をむいた。
現れるのは、お館様の、拳。
「何年甲斐の虎のそばにいる。明智ごときの不意打ちでくたばらねぇことぐらい」
それはきつく握られた拳。
某と交わされてきた、熱い拳。
「お前が一番わかっているはずじゃねぇのか、真田。」
片倉殿の言葉に、目が覚めた。
あぁ、そうだ。
なぜ勝手にお館様が死ぬなぞと考えてしまったのか、
「お館…様…」
片倉殿の言葉に思いだされるのは、お館様との思い出。
その大きな拳にたくさん救われてきた。お互いの力を高めあってきた。
学んできた。
その大きな拳で、頭を撫でてもらった。
そして、信じてともに歩んできた。
「お館様!!!!」
さけんで 、 かけだした
「待たれよ独眼竜!!!」
石段を駆け下りれば、己が愛馬と準備をしていた政宗殿の姿。
呼べば振り返り、某を一つ目の瞳に収めてくださった。
一瞬驚いたようだったが、ふっと優しく微笑む。
「拙者同道いたす!」
『あぁ、OK』
政宗殿が刀を抜く。
同時にバチリと彼女の蒼が舞う。
某の色とは全く違う。その力だが、槍に纏わせて応戦すれば、バチリっと火花が散った。
あわせ、あわせ、かみ合えばまた政宗殿は笑う。
『幸村、あんたの鋼の牙、あのおっさんと研いだそれを、今こそ剥いて魅せろ!』
「某の牙、それすなわちお館様の教え!すべてこの胸に!」
かみ合った力が天に昇る。
そしてそれは分厚い雲を打ち抜き、一点の晴れ間をもたらす。
あぁ、そうだ。
某らはこの一点の光と同じだ。
『私とあんたで、この最後のパーリィをたのしもうぜ』
「望むところ!魔王の首、必ずや我らでとってみせましょうぞ!!」
森の中を馬に乗り、駆けていく二人。
迷いなぞない。
ただまっすぐ討つべき魔王に向かってかけていく。
「『敵は本能寺にあり!!』」
その先に、絶対的な敵があろうと、
それは彼らの前には無関係のこと。
ただ彼らの最終目標は…その先を超えたその未来(さき)にある
20160905