腰の後ろで腕を組み、歩く男-松永久秀-
その近くに立つ柱にはぐったりと伊達の兵士たちが縛られている。


「奥州の独眼竜が手傷を負い、甲斐に身を寄せていると聞いて、かねてより欲していた宝…伊達の六(りゅう)の爪…そして武田の楯無鎧を併せて手に入れる好機と踏んだのだが…

 よもや卿らが伊達の家臣だとは知らなかった。」



痛みと畏怖…それも含まれるが宙づりにされ続けてる疲れもあるだろう。
けれど彼らはおくせずに、松永を睨み返した。

だが、そんなんこと、彼はおそらくきがついているだろう。



「いわれてみれば、そのなりでわかろうものではある…」



笑いまじにり、見下すようにそう言葉を吐きだせば、兵の一人である良直は「なめやがって…」っと苦しげに吐きだした。
もちろん、それだけじゃない。
佐馬助は「奥州に喧嘩売って、ただで済むと思うなよ」と声をはる。
…が一人、孫兵衛だけは「腹減った…」と弱音をはいた。

けれど、松永はあざ笑いを浮かべるのみ。


「長篠の戦いで傷ついた者たちを、甲斐の虎は敵味方問わず預かっていると聞くが…ほどなく、それも偽善であるとわかる。

 明日は敵となるやも知れぬ敵国の、それも卿らのごとき雑兵を、家宝の鎧と引き換えに助けようなど、一国の当主がするはずもない」



つらつらと言葉を並べていく。
それに良直は「殺るんなら殺りやがれ」と言葉を発し、続くように「俺たちゃ、いつでも腹ぁくくってるぜ」と佐馬助。

少なからず戦場でいつでも散ってしまう命。
それをどこで使おうと、という気持ちではあるのだろう。

くつくつ。

笑いながら松永はあるいているが、ぴたりと立ち止まり、3人を振り返る。



「だが、竜の右目…片倉小十郎が、手負いの独眼竜に代わって駆けつけたようだ。」



口から出したのは己がの仕える人であるその男の名。
3人は驚きに表情を揺るがす。
そんな彼らを見、「だから面白くなったと言った。」と松永は言葉を紡ぐ。

含みのある言葉。



「伊達の軍師にして最大の腹心を捕虜とすれば、卿らについては黙殺したのであろう武田も、さすがに対応を迫られることになる。

 伊達一党をにわか同盟の名のもとに抱え込んでしまった以上はな」



紡ぐ言葉は、おそらくのこの先の未来を予知することであった。






*-*-*---**-*-*



意識が浮上した。
銃創が痛み、そのせいで目を覚ます結果になったらしい。
体をゆっくりおろせば着せられていた浴衣がじっとりと汗で滲んでいて気持ち悪かった。

それに表情を歪めるが、障子の奥。月明かりに照らされたその影に意識を向ける。
浴衣の着崩れを軽く直し、そろりと障子に近づいていけば「目覚めたか。」とその声の主である武田信玄が政宗に言った。



『…とんだ茶番を見せたわ。』



ふぅっとため息をついて閉じられていた障子を開く。
いつもの赤い兜をかぶらず、着流しでそこにいる信玄は心底仏の道を歩んでる一人だ。

そのくせ戦に出ては同じ神に使える上杉謙信と戦い楽しんでいるのだが。



「いい腹心を持ったものよ」

『私にはもったいなさすぎるくらいのね。』



クツクツと彼女は笑い、すっと武田信玄の隣に正座する。
いつもなら袴を着ているため堂々と立ち膝で男らしく、目上のものがいようといまいと関係なく自分の行動をするのだが今回は着崩れの心配があるし、何より小十郎に知られたら少なからず雷が落ちるかもしれない。

故に、おとなしく正座。



『私の弱点は小十郎。そんなのいやでも知ってる。』



それからぽつりと、雲の漂う空に美しく輝く月を見る。
己の兜にたたえる美しい上弦に似た…それよりも少し大きい、それこそ彼の背にたたえられた月と同じような空。

政宗の表情に憂いが混じる。



『楯無の鎧…だったか…いいのか?』

「幸村と同じことを」

『家宝なんだろ』

「人の命には代えられぬ、それは主もじゃろうて」




ぽつりと、その言葉をこぼせば、信玄はくつくつと笑い政宗の頭を撫でた。
それこそいつも幸村と殴り愛をしているような、あの大きな采配を振るうそんな力を感じさせないほど優しく、優しく

多少髪は乱れたものの、もともと寝ていて崩れているため、政宗は気にしちゃいないが。



『…そうね。』



小十郎に託してしまった。私のわがまま。


そう心に思いながら、もう一度月を視界におさめてそうっと目を閉じた。



20160830

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