*-*小田原城・天守前


「…」


墓標のようにたてられている、一つの槍。
そこの前に立っている幸村はそれを見ていた。

そして、それを軽くなでて何かを感じ、眉間にしわを寄せる。



「それはそのままにしておく」

「! お館様」



そんな幸村へとかけられた声。
はっとしたように振り返り、ダっと信玄のそばまで駆け寄る幸村。



「改めまして、小田原城ご入城、おめでとうございまする!」

「うむ、
 なりゆきによる次第じゃ、伊達の倅にまんまと踊らされたまで」

「いいえ! これぞ盛者必衰の理!
 この地もいずれは武田領となるべくしてあったものと心得まする。」



そしてそういうと、振り返り立ててある槍を見る、



「また、敵をも武人としてと尊ぶお館様のお心に、この幸村、胸を熱くしております!」



そのまま幸村は目を輝かせてそういうが、信玄は幸村の側へと歩みをすすめて、望むその

景色を眺めた。

意味がわからない、と幸村も同じ方向に視線を向ける。



「幸村よ。
 織田信長をなんと見る?」

「! は!
 言い知れぬものを感じました
 なんと申しましょう…

 この世のものとは思えぬようなすごみと、さっきと呼んでしまうには生易しい…まがま

がしさ

 それでも、お館様の敵ではございませぬ!」

「…」



信玄の言葉に、そう言葉を並べていく。
けれど、信玄はその幸村の言葉にゆる土井視線を向けた。

びくりと、幸村はその視線に射すくめられたが



「…あれ以来、奥州の独眼竜がなりを潜めているのはなぜだと思う。」



けれど次に信玄はそう幸村に問うた。
問いに、はっと我を取り戻す



「それは…むろん、鋭気を養っておるのでしょう。
 あの男が第六天魔王と相対し、闘志を燃やさぬわけがあり申さ「ふむん!」ぬぁご!!」



信玄のこぶしが幸村の言葉をさえぎって炸裂する。
ものの見事に吹き飛ばされ、地面をえぐり、砂を巻き上げて背中から転がった幸村だが、すぐにその体を起こした。



「本当にそうおもうか、幸村!?」

「! まさか、お館様は、あの独眼竜が…

 今川の首を横取りしてはばからぬ者たちに臆したともうされるのですか?」



そして、動揺が若干混じる中、そう言葉を吐きつつ立ち上がる、
信玄はその言葉に何も言わない。



「強さとしたたかさを併せもつあの男に限って、そのような……もしそうならば、某見損ない申し「ふん!」がっっは!!」



再び、言葉をさえぎって放たれるこぶし。
再び吹っ飛んだ幸村。

信玄の表情はただ、真剣なだけで



「恐れを知らぬは愚の極み
 恐れをしることもまた、武人には必要にして不可欠なもの。」

「し、しかし、強い敵を恐れていては「ふぬん!」ごっほぁ!!」

「幸村よ。
 お前はなぜ、この戦乱の世に槍をふるう。 なぜ闘う。」



吹っ飛ばされてもなお立ち上がりそして駆け寄った。



「それは、お館様のお役に立ちたいいっしんにて!」

「…」

「ひいては、お館様に天下をおとり戴き、この日ノ本をすべて戴きたく!」

「それが成ったとき、お前はなんとする?」

「某はお館様のお傍にて、生涯、お館様の」




轟音。

けれど、幸村の呻きは発せられず。
なぜ?と疑問を抱き幸村がゆるりと目を開けば己の顔すれすれに止まっている信玄のこぶし。

驚き目を開く幸村に対し、そのこぶしを静かに信玄はおろした。



「いずれお前にも、わかる時が来よう…」

「お館…様…?」



その言葉の意をまだ理解できずに、幸村は心の中で首をかしげた


執筆日 20130821



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