刀を構え、そして剣劇を繰り替えす。
いつもは押さえ、邪魔にならないようにしている胸はそのままに、振り上げ、振り下ろす。
刀を握って、かれこれ何日になるだろうか・・
奥州から軽く離れた小田原は武田に譲った。
もともと私にとってあそこは囮だった。
桶狭間もそうだ・・・
ただ・・今川の首を・・・いや…ひっそり隠居させようと思ったにもかかわらず・・殺された
それは・・・私が弱いから・・・
だから・・・あの日から・・・寝る時間と飯の時間以外にはずっと刀を握っては振り回している。
呆れられているのは分かってる・・・だけど・・・
ザァァア---
雨が降る。
だんだんと強くなっていくけれど、でも・・・
こんな雨じゃ・・・私には関係ない
「政宗様。」
ヒュンっと、刀につたう雫を払うように、刀を一振りすればしずくがとんだ
ポタポタと・・・私の前髪からも雫が零れ落ちる
くるりっと、顔だけ振りまける。
多分、相当酷い顔をしているだろう。
小十郎の顔が少し、ゆがめられた。
そしてゆるりと少し細められる。
でも、私を映しているわけではない
また、視線を元に戻す。
パシャリ・・ぱしゃり・・
そこに居たのは・・・番傘を差してこちらに歩いてくる一人の男
長い茶髪・・軽く前髪が跳ねているが、髪が結わえてあるそこには三枚の長いはね。
風貌はまるで歌舞伎
「奥州名物・独眼竜ってのは・・・
・・・アンタかい?・・・ってあれぇ?女の子?」
それから、きょとんっとしたように私を見、それがイラついた。
女だ、女だからって、なんだ。
『あぁ?』
「門番やってる連中に、ここだってきいて・・・」
へらへらとしながらこちらへ近寄ってきつつ、門を指で示してそう言った。
私が女だということを知らなかった・・・っということは私にはあまり関係ないが・・・
雨のせいで袴が少し張り付いているから余計に体のラインが浮き立つのだろう。
視線がチラチラと泳いでいる。
『餅が食べたかったら茶屋へ行ってくれ。』
だが、名物と聞いて思いつくのは茶屋だ。
独眼竜なんて菓子はあるかどうかわかれねぇが・・・
「・・・簡単には食えそうもねぇな・・・」
私の言葉に、その男は、そう言って頬を掻いた。
「ま、覚悟の上さ、」なんて小さく聞こえたから、あぁ、独眼竜っていうのは菓子の名前ではなく・・・私の名か・・・
「政宗様に何のようだ?
仮にも奥州筆頭を前にした以上
まずテメェから名乗るのが筋ってもんじゃねぇか?」
そう思いながら、ゆるりと視線を田んぼへと向ける。
奥州は・・・いい、これで・・皆平和だ・・・
だが・・・小十郎・・・そんなに顔をゆがめたら皺がとれなくなる。
「おっとこいつは・・・
俺は前田慶次。以後お見知りおきを
こいつは夢吉」
「キキッ」
「・・・大道芸人が来るところじゃネェ、帰んな」
男…前田慶次はそういって、はぐらかすように周りを見回した。
小十郎は何かに気が付いたらしいが…。
前田…前田といえば、加賀の前田利家、それからまつ夫妻だな。
「しっかし、おとこくさいところだねぇ、
恋の花一つ咲かさせるのも、これじゃ一苦労だ。
ま、アンタぐらいの美貌なら、簡単にお嫁にいけそうだけどね!」
『・・・どこの祭りにいった帰りかしらないが・・・
やけに・・・Happyな男だ。』
前田を警戒しているのか、小十郎は相変わらず若干の殺気を放っている。
が、前田の肩にのっかっている猿と目があいへらり、っと猿のくせにわらって、きょとんっとしていた。
だが、私の言葉に再び場が再び緊張に静まり返る
濡れたままの刀が、鈍く輝いていた
『同盟?』
「諸国の武将を結束させようと思ってる。
尾張の第六天魔王さんと渡り合う為に・・・」
執筆日 20130820