「行けるかい?」
『無論にございます。』
ほら貝の音が聞こえ、横から半兵衛様に言われる。
返事をし、そして一般兵に混じって馬を走らせた。
砂埃を巻き上げて進む。
けれど、その時にふと見えた、黄色。
「待ってくれ!お前に話があるんだ! 秀吉!!」
そして、声。
「…前田慶次…」
『半兵衛様?』
「行くよ、」
『…はい。』
それに反応したのは、半兵衛様で
不思議に思って、声をかければそういわれて、軍を離れる白馬を追いかけて離れる
そうすれば、道を阻まれているその男がいた。
「元気そうだね、慶次君。」
慶次…前田慶次とは、確か、前田家の風来坊…。
織田信長討伐の際、武田信玄公や上杉謙信公に助言をもたらした男。
「君はちっとも変わらない。
顔つきもあの頃のままだ。」
「…っお前も変わらないな」
「手取川でのことは、報告を受けているよ」
対峙ている横を軍が素通りしていく、
半兵衛様の後ろに馬を止め、そして彼を見る。
彼と私はあったことはない。
けれどあの顔隠しをかぶっている。
「君が出奔の身でなければ、豊臣への敵対の意思を示した前田軍そのものが責めを受けているところだったということは覚えておくといい」
この二人には、何か因縁があるのだろうか。
まるで何か壁があるかのような、そんな風に私には感じ取れる。
「前田は人を妨げる豊臣の手助けはしない、
秀吉と話をさせてくれ!」
「秀吉は世界を見ている。」
「…」
「風と気の向くままに生きる放浪者の言葉など、
たとえ耳元で叫ぼうと、彼には聞こえないよ。」
あぁ、けれど…
半兵衛様の言葉に、ひどくこころがあせったきがした。
こころのおくのおく。
ひとりのおんなが、おおきなこえでさけんでる。
なにをさけんでいるのか、わたしはわからない
けれど、ないている。
「行くよ、麒麟君。」
『…はい。』
でも、私にはもう関係のないことだ。
半兵衛様の言葉に一度だけ前田を見れば、目があった。
そして、その瞳に驚きをはらませたが…私には関係ないことだ
あたまのなかでないていたおんなは、いつのまにかきえていた
執筆日 20130903