*-*Side Kojyuro*-*


開錠する音が聞こえた。

ゆるりと目を開けば、開けられた引き戸から竹中が優雅に入ってくる。



「失礼するよ、片倉君。」

「…」

「君の主君は大したものだね、
 南部、津軽、相馬…そして蘆名

 4軍による囲み討ちにも屈しなかったそうだ。」



そして、俺を見てそういった。
やつの後ろには何かを抱えた従者が一人、


…こいつは、政宗様にそんなことを仕向けたか…



「君を欠いた伊達軍が、そこまでやるとは思わなかったよ。」

「…あたりめぇだ。
 政宗様を舐めるんじゃねぇ」

「天女には、屈したのにね」

「…」



竹中がわずかに笑んだ。
だが、言われたその言葉ににらむ。

確かに政宗様は川中島の乱入の後、武田にいた天女を奥州へと連れ帰った。
やはり、こいつは知っていたか。



「まぁ、そんな天女もこの世にはもういない。
 小田原に向かった真田幸が討ってくれたからね。」

「!」

「まぁ、そのあと彼女からの連絡はないけれど…

 でもこれで誰も彼女の治癒の力は受けられない。」



だが、久方ぶりに出てきたあの女の名に目を見開く。
連絡はない…

まさか…

相打ちになったとでもいうのか?
天女は…戦えないはずだ…なのに



「だけど、




 しばらく英気を養ってもらうつもりだった秀吉に、直接奥州へ足を運ばせる破目になった」



嫌な予感が、した



「安心したまえ
 政宗君がどうなったか、僕は君をじらして結果を教えないようなことはしない」



横にいた従者から、紫の布を受け取りそして俺の前にひざまずくとその布を開いていく。
布の擦れる音とともに、布の中から現れたのは



「…っ」



俺のよく知る刀。


だが、俺が最後に見た時のものとは程遠く…刃こぼれが激しく…刃は中ほどで折れ本来の長さの半分しかない

思わず、息をのんでしまった。



これは、政宗様のものだ…。




「秀吉に随行した兵が持ち帰った君への土産だ。
 政宗君の六爪のうちの一振りだろう?


 今すぐ僕たちに与してくれとは言わない。
 ただ、これまで仕えた相手がもういないということを、まずは受け入れてほしい」



竹中の言葉が、耳に入ってこない。
刀を凝視している俺の反応が満足なのか、立ち上がる。



「そう長くは待てないけど、今の君の気持ちは僕にも理解できるつもりだ」



そして、紡いだ言葉に竹中をにらんだ
だが涼しい顔で「待ってるよ」と言葉を残し、牢を出る。

再び鍵のしまる音。





「幸…」



そっと、懐に忍ばせていたあいつが残していった刀に触れる。
折れた先からつくられたであろうこの刀は、まるでこのことを予期して置いていったかのように…

鈍い輝きを放つそれと同じで…政宗様は無事だと…伝えているようで…



「…死ぬんじゃねぇぞ…幸…」



くすみ、よどみ、闇の中でもがくこともなく沈んでいく。
そんな目を、あいつは去り際にしていた

死を恐れない、その瞳を…


忍びに好かれるのがあいつのいいところだが…




そのせいで、心を隠すのが酷くうまくなって



執筆日 20130902



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