*-*Side Sasuke*-*


懐しい笛の音がした気がした。



ふと目を開けば見慣れない不思議な景色の中に俺様は居て、
あぁ、これは夢だと・・・瞬間的に感じ取った。


お譲が・・もうこの世界に居ないなんて・・・信じたくなくて・・・
だから、現実逃避でもしているんだろうか。

なんて、浅ましいんだろう

手を離したのは、俺様なのに・・・



「幸・・・様・・・」



小さく名を呼べど、誰もいやしない。
ここは俺様の夢

誰にも、邪魔なんてされないんだ。



けれど、聞こえてくる笛の音は・・・



ゆるりと振り返ればそこは蛍がたくさん舞う幻想的な世界。

湖のほとりに大きな岩、
そこに座っているのは・・・



「幸・様・・・?」

『?』



紅い着物を纏った大切な人の姿で。
俺様の声に、ゆるりと振り返った彼女は・・・最後に上田を出たときのように大輪の桜の簪をその美しい髪に咲かせていた。

良い夢か、悪い夢かって言えば、悪い夢


これは、俺様の罪だ。


二度と、取り戻せやしない・・・それを確かめさせるような。



『佐助・・・?』



でも、名が呼ばれた。
はっとして顔を上げれば何時のまに近くにいたのだろう、

ふわりと微笑んだ幸様が俺様の目の前に居て・・・



『もう、いいのか?』

「え?」

『私は・・・武田に戻っても・・・いいのか?』

「っ・・・!」



その笑顔は酷く儚くて、美しくて・・・
思わず手を伸ばしたけれど、そのまえに目の前の彼女の体が







『あ・・・が・・・』

「幸様!!」




血にぬれて、地に落ちる。

どしゃりと崩れ落ちた彼女の体、
抱きとめれば恐ろしいほどに冷たく・・・そして・・・


悲しいほどの、白



「い、やだ・・・」



よく知っている色だ。
死体の色、

だんだんと、彼女の炎が、消えて行く




「だめだ、だめだよ!
 ねむっちゃ、だめだ!幸様!!」



目の前で起こっているこれは、夢なのに・・・
感覚もなにもかも本物みたいで・・・

あのときの事もあるから・・・


もしかしたら・・・あの子とこの夢は繋がっているんじゃないかって・・・
ありえないことなのに・・



『い、た・・ぃ・・・』




苦しげにうめく幸様の手を握れば、ぬるりと血の感触
けれど



フッと疑問に思った。


この手の怪我は・・・俺様が負ったものだ。

でも、雪ちゃんが治してくれた。


失礼かとは思ったけれど、軽く着物を緩め襟をはだけさせれば鎖骨から右肩にかけての擦り傷、

これは竜の旦那が鬼の旦那に負わされた・・



なんで・・・




「佐助っ」




銀色の髪が視界に揺れた。

はっとして顔を上げれば、そこに居たのは



「雪ちゃん・・・っ」



数日前、行方不明になった雪ちゃんの姿で・・・でも・・・



「ねぇ、佐助、
 そんな女のどこがいいの?」

「え・・・?」

「雪の方がいいじゃない。
 かわいいし綺麗だしなんでもできるし、戦えないけどみんなの傷だって治せるんだよ?」



にやりと口元を上げた雪ちゃんはそう言った。
それに、ぞっとして

けれど・・・すぐに理解することが出来た



「っねぇ、雪ちゃん。
 本当は傷なんて治せないんじゃないの?」



昔、俺様がまだ修行をしていた頃

相手に傷を転写するという術を教えてもらった、

他者の傷をのろいをかけた相手に与え、そしてじわじわと追い詰めて行くっていうやつ・・・

おそらく・・・彼女は・・・




「あはっばれちゃった?」




どこからか、刀を手にしていて、

まさかと思って腕の中に居る幸様を抱きしめたけれど




「ほんと、なんで雪がしななきゃなんないのよ」










別の赤がちって、








腕の中の、熱が・・・鼓動が・・・炎が・・・全てが







消えた



執筆日 20130830




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