「幸さま!幸さま! あそんであそんで!!」
「なんだよぅ、幸さま!俺に修行を付けてください!」
『うむ、私の身体はひとつしか無いゆえ、順番にお頼み申す。』
「「はぁい!」」


城下。
にぎわう場所とは違う、少し離れた寺子屋。
そこに、いつもの装束とは違う赤い袴姿の幸が数人の子供と戯れていた。

ここは、幸が彼女が師、武田信玄に頼みこんで許可を貰った場所。
元忍ー沙紀ーに管理を一任して子供達の面倒を見てもらっている。所詮、戦で親を失った孤児を集めた場所。


「俺ね! 大きくなったら幸さまみたいな武士になるんだ!」
『…そうか…そうなったら私よりも強くならなくてはな』
「うん!」


輝かしい笑顔だ。なのに素直に嬉しいと思えないのは、織田を打ち倒した己が見てきた戦の非情さが悲しいからか、
そんなのただの偽善者かもしれないが…



「幸様…」
『どうかしたか、沙紀殿。』
「今日は、猿飛はこないのですか?」


けれど、寺の奥からやってきた沙紀の言葉に、幸は体温がスッと下がるのを感じた。
彼女が言うとおり、ここに来るときはだいたい佐助が迎えに来るのだ。それは彼女と佐助が元々同じ忍だったから城下の情報を収集するためというのあるが。


『…っあんな奴、もうしりません』
「幸様?」
『主よりも他の女に現を抜かすなど、言語道断。っもういいっ』
「…なら。」



家出しちゃいますか?
なんて、いたずらっ子のように笑う沙紀の手には紐。



『う、うむ、お願いいたす。』
「そんな固くならなくったって、幸さまを縛るわけではありませんから。」


思わず敬語になったのは、仕方が無いだろう。


執筆日 20130423



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