私の生活は変わらぬはずであった。つい先日…病にふせった。それが、すべての原因だと…思う…。


『…佐助…。』


思わず名をんでしまったことは寂しさか、別のものからか…。
目の前の、…この光景が理解できない。きっと病に臥せった己の不注意だ…けれど。


「佐助殿、コレはどうするの?」
「これはね〜」


何故…私の槍を… お館様から賜りし私の宝を、その名もしれぬ女に…何故、持たせているのだ…私は…。そんな女子…知らない…女中でも…ない…こんなの…
ドクドクと心臓が嫌に音を立てる。

いつもなら…私が…居ることもすぐに佐助は気がついてくれるのに…何故気がついてくれないのだ…それとも…。


『っ佐助!!』


思わず、声を張り上げた。傍らにいた才蔵がいきなり声を張り上げたからか驚いたようにこちらを見ていたが一方でやっと佐助がこちらを向いてくれる。
それにホッとした、けれど…


「何の用かな、お嬢。」
『え…』


私にかけられたのは冷たい表情と、声。
固まってしまう私に、心底面倒くさそうに「俺様、給料以外に仕事はしないっていっつも言ってるよね?」とさらに付け足された。

いつもの暖かい瞳は無い。眠りに落ちる最後に聞いた、あの優しさも、ない。

何故…佐助は…そんな…。


『っ何でも…無い。』
「…ふぅん。お嬢がそんなんだから天女さまである雪ちゃんが降りてきたんじゃないの?」
『天女…?』


そして、うっとうしとしたように…そう、言った。
何故…天女…天から降りてきた女。

視線を、佐助の傍らに居る女子に向ける。

銀色の、絹のような髪。血のように赤い瞳

それが…天女だと…?


『っ誰の許しを得て、この屋敷内に他国の者を入れた!!排除するのが佐助のっ』


正論を…言ったつもりだった。

なのに、首筋に光黒光りの刃。冷たい、感覚が着流しによって晒されたそこに触れている。

ドクドクドクドク…と痛いほどに心臓がなる。


「いくらお嬢でもさぁ… 言っていいことと、悪いことって言うのがない?」



そして、言われたその言葉に心がさめていく。
あぁ…佐助は…私よりも…と、視線を下に向けた。
小さい頃から誰よりもそばに居てくれたのに…

佐助…佐助…っ



『ならば…っ勝手にしろ!!』
「そうさせてもらうよ。」


吐き出した言葉と、刃をはじき返す。
そんな私に何事もなかったかのようにその女に走りより、微笑んだ。

それを見ていたくなくて身をひるがえした。
もうすぐ、お館様も越後から帰ってきてくださる。


そうしたら、きっと、きっと…佐助も、気がついてくれる…っけれど…


ピタリ、とあの二人がいる庭から離れたそこで、足を止めた。
それは後ろをついてくれていた才蔵も同じ。


『六郎…』


そして小さく、佐助では無い忍を呼ぶ。
滅多なことが無い限り、佐助以外を呼ぶことは無いのに…けれど、それでも、すぐに呼んだ十勇士の一人である望月六郎は私の目の前に現れた。


「どうされました?」
『三好の二人と共に佐助達の監視を…私は、城下に行って来るゆえ…』
「御意に…ですが長を…?」


首をかしげた六郎は確かに正論だ。けれど、私がここにいたくない、というわがままな理由は悟られたくない。
けれど目を離すのは怖い、なんて我が儘な理由だ。

『こんなことしたくはない…けれど、もし何かあってからでは遅い
 才蔵、しばらく鎌ノ助と協力をして忍隊を動かし、根津と筧には悪いが各地で天女について調べてくれ。』


あまり、戦力はそぎたくないが…何かある前に全てを終わらせたい。

御意に、と言葉を続けた彼らは私を見上げる。
消えようとした才蔵に、『それから』と言葉を続ければ、ピタリっと止まった。


『もし、佐助の様子が本当におかしければ、あの女を殺せ。』
「…御意に。」


けれど、私にとって一番大切なのは、佐助の身なのだ。もしかしたら、あれは演技なのかもしれない。

そうであって欲しい…
でも、そうは見えなかったのが…悲しい

あのときの佐助の目は…深い、深い、闇だった。

くるりっと身をひるがえす。


『(世界に…私は…また一人になるのか…?)』


あの頃と同じように…



執筆日 20130316



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