サザンッ…
厳島の海の波の音が耳に届く、
夜の月が海に反射してひどく幻想的だが…ただ、それだけ…
それ以外の感想なんて…ない。
『…』
あの方たちが治めるであろう日ノ本はどのような風景になるのだろう。
光を失った世界では、どんな景色が望めるのだろう。
赤にまみれた世界は…
『…おろかな考え…か』
別に私がいようとも、いなくとも世界は同じように回るのだ、
ならば、何もいらないだろう…
なにも…
「麒麟様、」
『…久しいな、』
「あい、お久しゅう。
ご報告に参りました」
シュタリと、背後に降り立った影。
名を呼ばれ返せば当たり前のようにそう帰ってくる。
『報告?』
「現在、武田が忍隊…真田十勇士が各地をめぐり真田幸を探している模様。
今一番近いのは真田幸へ変化している由利鎌ノ助とともにある猿飛佐助かと…」
ふと聞こえたその名に…ゆるりと目を細める。
由利鎌ノ助…猿飛佐助…
『真田十勇士も落ちたものだな。いまさらになって主を探すとは』
「麒麟様…」
『あやつは死んだのだ、私の手で、殺したのだ。
ほかに何があるという。 』
愚かなものよ、
そうつぶやくように言って立ち上がる、
そう、もういいのだ。
『…』
名は覚えていても、朧げにしかその姿を思い出すことはできない、
あの呪いは感情だけでなく記憶までも奪っていくというのだろうか
まったく、しつこいものだ
「麒麟様…」
『準備せよ、日向。
明日には四国をおとすための戦がはじまる』
「はっ、」
シュタリと闇に消えるかの姿をふと視界に移して
執筆日 20130829