「…」
長い夢を見ていた。
そういえば、言葉は簡単だ。
だが…俺はとんでもない間違いを犯していたと…
「(幸…)」
ぼろぼろの体。
だが…
豊臣秀吉にやられたものだ。
けれど…
「貴様は弱い、あやつとは大違いだ。」
言われた言葉が、ひどく俺を駆り立てた。
弱い、弱いだ…?
この竜が、弱いだと?
笑わせてくれると、思ったが…
「(とんと、修行なんてしてなかったな…)」
小十郎にも言われたじゃねぇか、
武田にいた時には雪だけを…
あぁ、だが…
俺を、垣根なしでヒートアップさせることができる…心優しい女
俺はそいつのライバルでそいつは俺の唯一で何よりも俺は…
幸を愛していた。
「(俺は、最低だな)」
『あぁ、よかった、お目をお覚ましになりましたね。』
長篠の戦…
被弾した俺を介抱し、そばにあったのは温かいお前だった。
眼帯を外していたにもかかわらず…当たり前のようにそばにいて…
俺に向かって笑んでいた。
『片倉殿を呼んできます故、少々お待ちを
…政宗殿?』
「いくな…」
するりと、俺の手からぬくもりが消える。
それが酷く恐ろしかった。
思わず幸の着物の袖をつかみ、言った。
驚いたように目を見開いた幸だったが、また、ふわりと笑うと天井に向かって『才蔵、すまぬがよろしくたのむ』と、そういって俺に向き直り袖をつかんでいた手をそっと握った。
「…怖くねぇのか」
『何がですか?』
「…」
『ふふ、案外童のようなことを言うのですね、
少々失礼します。』
そして、聞いた言葉に、するりと俺が握っている手の袖をまくった幸
黒の布に覆われた腕が表れ、そしてその布すらも取り払えば、焼けただれた…世辞にもきれいとはいないその傷跡
『私の業。そして何よりの宿命
私は同族殺しでございます故、政宗殿よりはるかに醜き生き物、
この傷は、幼き頃に受けたものでございます。』
政宗殿の右目は竜になるために失ったもの。
私のこれは、そんなに美しきものではありませぬ、お目汚しを
それからそう言葉をつなげ、袖を戻した、
幸のその時の表情はひどく悲しそうで…
触ったら壊れてしまいそうだと、思ったんだ。
深く深くに沈んだ本心が、戦場で民を守ろうとするそれを作っていたんだと…
壊れそうなそれを、守りたいと
執筆日 20130826