「(どこ?どこにいるの?)」
大将に許可を取って北から南。
東から西へと走り回った。
才蔵の言葉が頭から離れない…。
「たよることはない」…
それは、俺様があの子を裏切ったから。
本当は一番傍にいなくちゃいけなかったのに…俺様は裏切った。
真田十勇士は幸様をただ守りたいがために集まった集団で…
だから彼女を守るのが役目で…
だから…幸様を守ることをやめた俺様なんて…敵も同然なんだ…
鎌ノ助の行方は伊三か清海しかしらない。
でも、その二人もいないし才蔵も当てにはならない。
自分の足で動くしかない。
幸様が…まだ弁丸と呼ばれていた時のように…
「(あの頃みたいに…笛を吹いてくれたら…っ)」
すぐにでも、幸ちゃんの場所がわかるのに、
すぐにでも…かけつけるのに…
今はひどく心が軽いんだ。
まるで今までずっと重い重い…枷をはめられていたかのように…
雪ちゃんのことなんて、どうでもいい。
冷たい雪よりも…
温かい炎のほうが…俺様はいい…っ
走って走ってそんな時だ。
ツンッとした鉄のにおい。
はっとして隠れた。
隠れた場所から、見えた黒。
闇に解けるようなそれ…
けれど、その存在は…異質とも取れる。
「(確か…豊臣の麒麟…?)」
顔は見えずとも、背に背負っている剣はあの戦場で見たものだ。
だから、間違いない…
だけど…なんでここに…
ここは見覚えがありすぎる場所だ。
織田信長を討った…安土城のすぐ近く…。
「(ひどい…血の匂いだ…)」
いったいどうしてこの人は…
だけど…今はこうしてられない…
「(武田は豊臣と闘えはしない。)」
だから、敵にするには、危なすぎる
そう思って、静かに地を蹴った
執筆日 20130823