『片倉殿、片倉殿。』



そっと座敷牢までゆき、それから牢の中へと声をかける。
そうすれば控えめにしきってある障子が開きそして片倉殿が見えた。

驚いたように私を見た片倉殿は目を瞬かせた。

当たり前だ、



私の姿は、紅の戦装束をまとうそれなのだから。
もちろん、武田のものでなく…

女中殿に頼んで動きやすくしてもらったもの。
一度川中島であの戦装束は見られておるゆえ、悟られるのは少々まずい。

この前とどうように、目には布を巻いたままで参上すれば「お前…」と言葉が漏れた。



『今宵より、某は旧北条の地へと向かうことになりましたゆえ、ご挨拶に参りました。』

「っ体の傷も癒えてねぇお前が行ったところで足手まといだ、」

『いいえ、片倉殿。
 某の名にはそれだけ威力があるのでございます。


 もとより拾われた命、つきたいのちにございますゆえ…



 伊達殿の眼を覚まさせるためにも、必要なことにございますれば』

「!」



片目をかばって戦をすることはかなり危険なことだと、片目の主人を持つ片倉殿はご存知でしょう。
だからそんなにも苦しそうな顔をする。

でも、私には関係のないこと



だってすでに真田幸は死んでいるのですから。




『天女を、討ってまいります。』

「それは…」

『天女が起こした災いは、降り立った場所にいたにもかかわらず、放置してしまった某の失敗
 決着を、つけてまいります、。



 たとえこの身が灰となろうとも。』



偽善とうそを並べて、揃えて吐き出した。
片倉殿の瞳がわずかに揺れる。

けれど、渡したいものがあった。


おそらく、彼はここから出るようなことはしない。
出たところですぐに捕まるとわかっているから。

一度周りを見て、それからそっと布に包んだそれを差し出した。



「それは…」

『かつて、伊達殿よりいただいた竜が爪より作った懐刀にございます。
 某には必要ない品でありますから、どうぞお納めください。』



おそらく、伊達包囲網よりの報告は半兵衛様より聞いているだろう。
希望を持て、ということではないけれど…




唯一、「真田幸」が生きると知っているその人へ、




『無謀なことは、しないでくだされ、片倉殿。』




あなたが死ぬことは、ゆるしませぬと…








微笑み、そして立ち上がった、








『(もうこれで)』




あなたに会うことはありませぬ。



片目を隠していた布を取り去って、静かに笑みという仮面を外した



執筆日 20130819



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