上田城。いつもと変わらぬ平凡な日々が流れていた。
ただ違うのは珍しく、健康が取り柄なかの姫君が病に臥せっていることくらいだろうか。


「まったく、お嬢が風邪を引くなんて、珍しいね。」
『す、まぬ…っ』
「お嬢も人間だと思うと俺様安心するよ。」


床に伏せっているのは紅蓮の鬼と、戦場では恐れられている女武将・・・真田源二郎幸。
ごほごほと、苦しげに咳こむ彼女に傍らに居る夕日色の忍・・・猿飛佐助は、同じように、苦しげに表情を崩した。病に臥せることがないからこそ、その苦しげな様子が痛々しい。


「…少し休みな?」
『う…すま、ない…佐助…』
「ううん、いいってほら、お嬢の好きなお香を焚いてあげる…」


優しげにそういってスッと、幸の瞼の上に甲冑のつけていない手を置いた。熱があるからこそ、そに彼の少し冷たいその手にぴくんっと身体を震わせたが、とろりと瞳がうるめばすぅっと意識を飛ばすのはきっと体が休息を望んだからだろう。

幸が寝入ったのを確認すると、言ったとおりにお香をたいて、部屋を出る。
外には火縄銃を肩にかついだ赤毛の、彼女が取り仕切る十勇士の一人である筧十蔵が梁に寄りかかり佐助が出てくるのを待っていたらしい。


「鎌が森が騒がしいっつって出てる。」
「うん、分かってる。十蔵は才蔵が来るまでお嬢の警護お願いね。」


「俺様がすぐにいく」とそう言って身を翻した。
筧はその言葉にしたがって、梁に再び寄りかかり目を外へと向ける。


佐助はいわれずとも気がついていた。
城内に、この城のものでは無い、別の人間がはいって来たことを…
おそらくそれは今は眠る彼女以外、彼女を守る忍たちは皆気がついただろう。

ド素人だ。


「幸様…俺様、ちょっと行って来るね…」



それは、彼が、忘れるちょっと前の事




執筆日 20130316



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