『・・・』



ふわり、

風が黒の衣を揺らす。
崖の上から下を見れば、そこに居たのは突撃間際の蒼・・・伊達軍。



そして少し向こうに見えるのは、赤と薄い青・・・

武田軍と上杉軍だろう。


腕を組み、その光景を見下ろす秀吉様、
その左横に半兵衛様が立ち、

私は二人の少し後ろに立っていた


すでに武田も、上杉も、伊達も半兵衛殿の策によって包囲されている。

おそらく、それにすら眼科の彼等は気がついていないだろう。


スッと、半兵衛殿の手が水平に伸ばされた




「川中島に集う全武将、全兵士に告げる
 この戦場は僕達豊臣軍が完全に包囲した。

 豊臣の軍門に下りたまえ、降伏のあかつきにはすべてのものに確たる処遇と同等の安堵を約束しよう」



そして、半兵衛殿のその声が、空気をつたい、響き渡る。
こちらに視線が向き、けれど半兵衛様はそんなことなど気にせず・・・伸ばされていた手が、上に垂直に持ち上げられる。


ザッっとそれに、下で待機していた豊臣の兵たちが槍や武器を構えた。


けれど、それは向こうも同じ・・・


信玄公と、謙信殿の武器が掲げられ、それに続いて武田・上杉の弓矢隊がこちらに矢を向けた



「放て!」

「ふんっ!」



掲げられたそれが、おろされる
同時に引き絞られた矢が、いっせいにこちらに向かって放たれた。

たんっと、それに前に出ようとしたが、ちらりっと視線だけをこちらに向けた半兵衛様は笑っていた


あぁ、きっとコレは予期していたのだろう。
だったら、私に出る幕は無い。


数歩、前に出た秀吉殿が雄たけびに似た声を上げて、バッと手を横になぎ払った。

重い風圧


こちらに放たれたその矢はすべて、打った兵士達に返される。
あの中には、私と見知った顔もいたのだろう・・・


けれど・・・きっとそのものたちも私なぞ、忘れているだろうか・・・



「ぬぅあああ!!」



拳が真上に掲げられる。

くもり、分厚い雲を張っていたそこは、バッと避けて、光が差し込んだ
まるで、この場所だけが・・・生きるための場所のように・・・




「我が名は豊臣秀吉
 われの前に屈し、われの元で一つとなれ


 強き兵として、この国を富めんが為に」





そして、ひびく。
強き兵・・・


その中に私も入っているのだろうか・・・


執筆日 20130813



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