「君は相変わらず忍みたいな登場の仕方をするね。」



にこり、と笑って半兵衛様は私を見た。
一方の私は膝をつき、下から見上げている状況だが、もともと・・・猿飛の真似事をしていたから身軽な方で、

だから、今はこうして忍の真似事もしている。

だが、今回はそんな話ではない。



「まぁ、いいや。
 麒麟君、君には僕達と一緒に川中島に来てもらう。」

『川中島・・・にございますか?』



耳にたこが出来るほど聞き覚えのある場所の名。
お館様・・・武田信玄公と、その宿敵上杉謙信公が幾度となく刃を交え、そして未だ勝敗つかぬ因縁の場所。

そこに・・何故、と固まっていればクスリと、相変わらずの笑みで半兵衛様は地図を広げ、私に来るように促した。



「奥州に潜ませている兵が伊達軍がそこで武田軍と上杉軍の戦に乱入するって話しだ。
 だから、そこに向かう。

 そこにはなかなかの兵たちもいるから・・・麒麟ちゃんに、騎馬隊を率いて着いてきてもらおうかと思ってね。」

『・・・左様で・・・ですが、それならば家康殿や三成殿のほうがよろしいのでは?』



呼ばれて、少し落ち着かないけれど、椅子に座ってきょろきょろしてしまう。
南蛮の文化を取り入れられた半兵衛殿の部屋はどうも落ち着けない

けれど、使命とあらば仕方ないだろう。
私は彼に・・・彼等に救われた身、
逆らうことなんて、絶対にしない・・・昔のお館さまのように



「秀吉からの勅令だよ」

『・・・御意にござりまする。」



それから、元々拒否権が無いのだとしらしめられた、

苦笑い、

立ち上がれば、「あ、」となにか思い出したように半兵衛殿は私に「はい」っと手に持っていたそれをわたした。



『これは・・・?』

「勝手にだけど、作らせて貰ったよ。
 もしも、君を彼等が探していたら厄介だからね。

 着てみなよ、その上からでも着れるから。」

『はい。』



それは、黒地に、赤・・・
豊臣を示した羽織。

そして、顔を隠すためのだろうか、家康殿のように被り物が着いてる。

それを半兵衛殿の前で着て見せれば、じっと私を見た後に、にこっとわらって「うん、大丈夫そうだね。」なんて笑っていた。

でも、コレでは戦いづらい・・・



「なるべく、これを被っているんだ。いいね?」

『半兵衛殿のご命令とあらば。』

「うん、それだけ。
 出発は明朝。よろしくね。」

『はい。』



けれど、これは彼の望むことだ。
だから、平気。






黒衣の騎士が向かう先


執筆日 20130813



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