『う・・ぅ・・・』



ずくずくと、体の中心が痛みを発して、頭が痛い。
半兵衛様より、言われた、私の新しい宿命。

いまや、真田十勇士のように忍を使役し、騎馬隊をも任されていて・・・

でも・・・



『っ・・・』



武田より離れて・・・夜や・・・あのときのような雨の日には体の芯というのだろうか・・・
そぎ取られるような、その感覚に気がおかしくなりそうだ、



『さ、すけ・・さすけ・・・っ』



無意識に口が動いて、名を呼んでしまう。
とても・・・大切だった家族を・・・


ぎゅぅっと首に掛けている赤みがかった鉄の笛を握った。
小さい頃に、佐助に貰ったもの。

迷子になったときには吹いてね、絶対駆けつけるから、と・・

あのころは言われたが、もう来てはくれないだろう。


それでも・・・すてられなかった。




『・・・』



だが、やはりじっとしているのが苦しくて、身体を起こし羽織を掴んで部屋を出る。
外に出て空を見上げれば月が輝いていた。




「どうかしたのかい、麒麟君。」



その輝きが、酷く儚くて・・・
消えてしまいそうで・・・


あの方に酷く、似ていて・・・


けれど、駆けられた言葉にはっとして振りかえればそこには、淡い紫色の着流しを着ている半兵衛様がいらっしゃって。
慌てて膝をついて頭を下げた。

そうすれば、クスクスと小さく笑われてしまう。



「いいよ、顔を上げて。」

『い、いえ・・・私は・・・』

「眠れないから起きてるんだよね、知ってるよ。」



けれど、言われた言葉に、はっとして顔を上げてしまう。
全てを理解しているような、その言動と、そして表情に・・・何もいえなくなってしまった。

私と目線を合わせるように私の前に座り、そしてぽんぽんっと優しく頭が撫でられる




「君の忍がね、君が夜な夜な苦しんでいるってことを僕に伝えてきたんだよ。」

『え・・・』

「君は本当に人を惹き付ける才能があるんだね、あんな堅物だった彼をあそこまで人想いにさせちゃうんだから。

 でも、君が抱えているのは、病じゃないみたいだね。」



けれど、言われた言葉に目を見開いた。
忍・・・というのは・・おそらく日向(ひゅうが)殿のことを指しているのだろう、

彼はどこか佐助に似ていて・・・

ですが言われた言葉にきょとんっとした



『病気・・?』

「うん、大谷君がね教えてくれたんだよ。


 君には黒い靄がまとわりついているって」



最近、笑わなくなったの気がついてるかな?



なんて、言われて目を見開く。

昔、佐助に聴いたことがある。

呪の一種には感情を欠落させるものもあると・・



『・・・では、私はそのうち笑むことも・・泣くことも・・・そのうち痛みを感じることすらおそらくなくなるのでしょうね。』



なんて・・・




あぁ、けれど・・・ 感情が欠落すれば・・・




この悲しみもなくなるということだろうか?



執筆日 20130805




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