『げほっ・・・かは・・・』
「主は無理をしやる、」
『で、すが・・・っけほ・・・』
黒い戦装束を纏い、背に本来この女が纏っているであろう紅い衣を着ている女を担いで炎の中より戻ってきた。
だが、口を覆う布を外した瞬間に噎せ始め、刑部は背をその女を下ろしたあと、そんな彼女の背を撫でていた。
なみだ目になりながらも、救い出してきた女は確かに息をしている。
それをみて、酷く安心したように微笑んでいた。
『母上・・・』
そのまま、眠る女の髪を撫でながら、ほぅっとため息を付いていたが、女の口から「幸・・」と小さく呼ばれると、ビクッとその手を引っ込めた。
そして、泣きそうに表情をゆがめる。
「行くぞ、麒麟.」
『わかっておりまする。
ここは、武田に近いゆえ・・・十勇士たちもすぐに気付くでしょう』
だが、すでにこいつは名を棄てている。
ならばと、半兵衛様が与えた名で呼べばすぐに「真田幸」の表情を覆った。
そしてすぐにその可能性を良い、首に下げていた六文銭を外して、それを女に持たせた。
『さようなら、母上。
幸は母上の娘に生まれてうれしゅうございました。』
それから、別れを告げて立ち上がる。
くるりと振り返った麒麟の表情はすでに弱さを棄てたソレだった。
「ひひっ誠、新しき騎馬隊長は頼もしきかな。」
『お褒めに預かり光栄にございまする、大谷殿。
私とて、何時までも己の宿命を受け入れぬわけには行かぬゆえ、
自ら決めた道すら、歩めぬというのならば、
それはたんなる弱虫にございましょう。』
「三成、主も麒麟に少しは習え。」
「私は自分の道を歩んでいるつもりだ、」
後日、武田が真田十勇士の一人、三好伊三入道がつげしこの惨事は才蔵に伝えられるも・・・
武田信玄。
しいては忍頭である猿飛佐助の耳には通らず、
真田幸が母はその後越後へとその身を隠した。
執筆日 20130804