「へぇ、じゃぁ三成君はそのままその子のそばにいるんだね。」
「あい、迎えに出せず、申し訳ありませぬナァ」
「いいよ、本当に大切なものっていうのは良いと思うし」
約束の日より、三日。
竹中半兵衛は、告げたように三成の下へ来ていた。
だがそこに彼の姿はなく、迎えたのは彼の大切な友人。
「それで、三成君は今どこに?」
「あやつなら、奥の室におりまする」
「そう、ありがとう。」
半兵衛はにこりっと、大谷吉継に微笑むと指定されたその部屋へと向かう。
人払いをしているのか人気はなく。
ただシンと静まり返っているその場所を、ただ一人で歩いていた。
そのときだ、
タンッと、彼が立つ少し先の部屋の障子が勢いよく開かれた。
そしてそのまま転がるように出てきた銀色に、半兵衛の目が細められる。
「は、半兵衛様!!」
「三成君、君の猫はそこにいるのかな?」
「ね、猫?」
三成の目が驚きに開かれる。
半兵衛はそのまま微笑み、それから障子の奥に視線を向けるが、三成は「私は・・・」と言葉を濁す。
ひょいっといたずらっこのようにその部屋を覗き込んだ。
そして、先ほどまでの笑みを消して、驚きを含み部屋の中を見ている。
「私は・・・猫など・・・」
「いや・・・確かにこの子は猫だ・・
よく拾ってきたね、三成君。」
「っ・・・」
その部屋にいたのは・・・
そっと部屋の中に入り、部屋の奥で小さく身を縮めるその「猫」の元へと歩み寄った。
近づく半兵衛などの興味も示さず、壁により、ぼーっと空気を見つめている。
「初めまして、君は、
真田幸君であっているかな?」
一言、言われた名に、ゆるりと視線が持ち上がる。
光のこもらない瞳が半兵衛を映した。
さらりと、切口がそろっていない茶の髪がするりと彼女の肩を滑って背中に流れ落ちる。
『わ、たし・・わたし・・・』
「いいよ、無理に」
『わたしを・・・ころして・・・』
必要ない、イラナイ、イラナイ、もう、
死にたい
半兵衛も、三成もその言葉に驚きに目の色を染めた。
噂では、彼女は戦で舞う、緋色の花。
誰もが恐れ、魅入る彼女は・・・
程遠いような存在だった
執筆日 20130716