赤が散る。紅が舞う。

金属音を響かせて黒き衣をまといし騎士は舞う。その細い腕にどれだけの力を秘めているのか、赤き覇を持つその男にも劣ることはなく。

舞う、舞う。


「ふむ、さすがは豊臣の特攻頭というわけか!」


ガキン!
響く、響く。人には奏でられない、その音を。空中に投げ出された騎士は回転し、その甘栗色の髪をなびかせて地に舞い降りる。

その場所はかつて、師と弟子が力を確かめ合った場所だというのに、互いの命をかけて戦うことになろうとはおそらく誰も思わなかっただろう。
だがしかし、それが真実。揺るぐことなき真の現実。残酷なほど、悲しきこと。
きっと、誰も希みはしなかったこと


『私が刃をふるうのは尊き秀吉様のため、かの方の夢をかなえるため、半兵衛様の策を真とするためのみ。あなたには一生わからないこと』


ふわりと風が吹く、風に彼女の髪がなびく。木は揺れて葉が落ちる。
今までずっとそばにあり続けると感じ、信じ裏切ったその報いはとてつもなく遠巻きに武田の兵たちが見つめる中2人は戦っていた。

止まりはしない。ただ、ただ刃を合わせていく。けれど、誰が気が付いただろうか。

武田信玄には明らかな隙がある。けれどそれを麒麟はとらえようとしない。それは信玄が抑えているからではない。
それに気が付いたのは、たった一人、鎌ノ助のみ。


「(っやはり…)」


本質すら越えられない。刃を合わせるたびに、彼女の表情が切なげに滲む。
きっと本人だって気がついている。気がついているけれど、認めたくなくて刃をふるっているのだろう。
それを、信玄は気がついているからこそ、彼もそれ以上采配を振らないのだ。

お互いがお互い、一歩引いて…今まででは考えられないような…そんな生ぬるい。それでも、この敵対している現状には変わりない。過去の弟子が敵対しているなんて、このご時世よくあることではないか。それでも二人はそれを真としない

ーーーー彼女の心は死んでいない


『っ!!!!』



存外先に限界がきたのは武器の方だ。幾度も強烈な攻撃に耐え、黒い炎を纏ったそれはいびつな亀裂を走らせた。
一瞬の動揺。それを見逃すほど信玄は甘い武将ではない。


「温いわぁぁぁぁあああ!!!」


かつて、かの姫武将と交わらせていた拳と変わらないそれを振り上げる。
驚き目を見開いた麒麟の動きは完全にとらえられその華奢な体にたたきつけられたこぶしに呻き声をあげるとあっさりとその体は後方に飛び城壁に叩きつけられた。縫い付けられるように壁に数秒、貼り付けられたからだが膝から崩れ落ち『ごほっ』と苦しげな音。

一瞬にして静寂。だがしかしたしかな勝機。


『っころ、せ』


呻いた中の言葉だ。
ほら貝がなることもない、それは白旗ではない。麒麟として生きる彼女の意志だ


「負ければ自害せよと言われたか」

『弱い駒は要らぬ。私はあの方たちの足手まといになるくらいなら』



ーーーー死んだほうがましです。おやかたさま。


かのじょのくちからでるのは願いだった。世界が時を止めたように静寂に包まれる。いまなお争いは続いているというのに、彼女からでた形容詞。
鎌ノ助が驚いたように目を見開いたがゆっくりと顔を上げた麒麟の表情には悲しいかなかつてのような感情なぞこもっていなく


『温いのは貴様だ』


ゆるりと持ち上がった口許に紅を宿して、地を蹴った彼女は手に持った短剣を突き刺した






赤が散る。



20170521


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