もともと、武田信玄いがいの首など必要なかったのだ。
否、武田が、豊臣の脅威にならなければ、それでいい、…それが半兵衛様に託された私の仕事…。


なのに、なぜこの男は…。
紅が少しずつ離れていく。


この自覚もない男を、なぜ秀吉様は気にするのか、私にはまったく理解など出来ない。
あぁ、けれど、半兵衛様さえも気にする軍師となればしかたない。



「これで、お主が求めるものだろう。」

『…私にはお前の考えが理解できない。』



なぜ、見方を下がらせたのか、それこそ意味が分からない。
何を考えているか、私には到底、不明で。



『後悔することになるぞ。』

「そんなもの、とうにしておる。」



ちゃり、と首元の銀が、揺れた。
それが合図とでもいうように駆け出す。

すべては何かをぶつけるため。







*****


***Kojyuro Side***

一度は驚いていたが、だが、すぐに攻めの手を緩めねぇのはさすがといったところだ。
だが、俺はそんなやつらに負けるほど落ちぶれちゃいねぇ。

手元でバチリと音がなる。
青い稲妻が体を包み、放たれる。

あまり慣れちゃいねぇが、奪い取った刀を振り回す。

ぶわりと砂埃が舞った。
倒れる兵などかまいやしねぇ、
俺が目的とするのは目の前のあの銀色だけだ



「そうか、僕と君とは違ったんだね。」



そして俺によって倒れた兵たちを見降ろし、そして顔を上げたその眼には、嘆きが含まれている。
何を思って嘆いているのか、俺にはわからないが、




「君の刀の刻印は…副賞としての特殊な誓いなんかじゃない。
 君がその深淵に秘めた凶気を、封印するためのものだ。」



竹中が吐きだした言葉に目を細める。
凶気、あぁ、そうだろうな、

だが、俺はあの日、右目を託された日に決めたことがある。
裏切りでも、憎しみでもねぇ、



「覚悟を決めろ、竹中半兵衛…
 その時間はくれてやる。」



ただ、一人の男として、あの方を支えていくと、誓った。

くすりと笑い、凛刀を抜く、



「いまさら命など惜しくはない。



 ただ、














 君に捧げる命がないだけだ。」





執筆日 20141220



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