「幸…様…?」
黒い衣が風に揺れる、
めくれた布の下から現れたのは、待ち望んだ、あの日失った、紅だった。
けれど、美しかったあの長髪は、一房をのこして短くなり、
その目に昔のようなきらめきはなく、どこまでも落ちるような深い闇が続いてくような、錯覚さえも生み出す。
「(あぁ、けれど、もうまやかしはいらない…)」
お館様の隣へと、紅の衣を纏ったまま、並んだ。
忍のくせにと、いわれそうだが実際俺たちを纏める長は早速忍ぶことすら忘れているような、そんな人だ。
だが、あの人がいて、隣で笑っている幸様がいて、笑っているお館様がいて…
そんな彼らが愛する仲間がいて、仲間は、彼らを信じて…
俺は、あなたが幸せならそれでもいいと思った、
でも、だ…
「(今の俺には、貴女様が幸せそうには、見えない…!)」
それは、あれを見た俺の幻か、
それとも…あの人の目がみせる、本物か、
息を吸った。
「貴様一人で、何ができる。」
吐き出した言葉は、自分が思った以上にはっきりと口から出ていった。
ザワリと、周りの視線が俺に集まる、
けれど、今は関係ない。
俺の目の前にいるのは、幸様の皮をかぶった、別物だ
「かつての貴女様は、もっと輝いた目をしていた。
敵として見ても、惹かれるような、何かが…
今の貴様は、ただの操り人形ではないか」
たとえるのならば、まさにこの言葉なんだろう。
ゆるりと彼女のその常闇の瞳が俺を映す、
あぁ、何が、そんなにも貴女を苦しめてしまったのか…
「よい、鎌ノ助、下がれ」
「お館様」
そんな俺を止めたのは、お館様だった、
まっすぐと、幸様を見る目はひどく、慈しみに塗れていて、
あぁ、あなたもそのような瞳をするのかと、
「皆もだ、これ以上敵がこぬよう、破壊された城門につけぇい!!」
そして、次に出したのは、この場から皆を散らせる言葉で、
あぁ、だれも傷つけないようにするためかと、
「お主も、ようがあるのは儂の首じゃろう、」
『えぇ。ほかのものに興味はありませぬよ』
そして、師弟の関係のためかと、
執筆日 20141105