『鎌之助殿、お待たせして申し訳ございませぬ』
暗い城の裏口。
そこには、先ほど別れた鎌ノ助殿が馬車の傍らに立っていた。
「いえ、ではどうぞ、幸さま」
近寄りそして、言う。
そうすれば鎌ノ助殿は籠の布をまくった。
籠に乗るなど・・・幼子以来だ。
そう、もう「あの日」より私は「某」であり・・・女子ではないのだろう・・
「幸さま、何かありましたらこれを」
『ありがとう、 すまぬな』
布を下ろされる前に、小さな金属の笛が渡された。
あぁ、ふと懐かしいと思ってしまう。
私はこれと同じものを持っているから…
ぱさりっと布が下ろされて、遮断される。
重い着物と柔らかい月の光が差し込む個室。
それから、ガタリっと小さく音がして、ゆるゆると動き出す。
狭い空間は・・・正直、苦手だ・・・
あのときのことを・・・思い出す
ちちうえぇ・・・ひっく・・・あに、うえぇ・・・
泣いている。
小さな幼子が。
泣いている
小さな檻に閉じ込められて
もう亡き、その方たちを
だらしが無いかとは思うが、ころんっと籠の中に寝転がる。
しゃらりっと簪が音をたてて、長い髪が狭い場所に散らばった。
目を閉じれば、開く世界は水の中。
どんなに手を伸ばしても・・・水面には手が届かない。
もう・・ 二度と・・・とどかない・・・
『(もう・・・いいだろうか・・・)』
戦場に咲いた花と謳われた。
けれど、きっともう・・・
ゆれる、ゆれる・・・世界が、
女の幸せはとうに捨てた。
あの人に裏切られた・・・私に残っているものなんて・・・
もう・・・ ない・・・
執筆日 20130517