離れにある私の部屋とは裏腹に、この場所は酷くとてもにぎやかだ。
だが、これは…。


宴会の行われてる大広間の前。その前に座り、スッと着物を広げる。
いつもの装束にはない美しい装飾に動きを制限されて…今の私はなんて滑稽なのだろうか・・・


『失礼いたします、お館さま。』


けれど、こんな格好でも私はお館様には無断では行きたくなかった。これは、私のわがままだ。
手をついて頭を下げ、丹田に力を籠め、声を飛ばす。


「幸か?」
『はい、準備が整いましたゆえ、某、今より真田へと里帰りする挨拶に。』


簪がシャラリっとゆれる。ゆらゆらと上杉公から賜った桜の花が視界の端でゆれている。



「顔を見せよ。」



それを、視界の端に捕らえていたが、戸をはさんでそういわれて、スッと、上体を起こした。先ほどと違って少しシンッとする。けれどここには、もうこの場所に居たくない…。


『いえ、夜が明ける頃には向こうに着きたいとおもうておりまする。ゆえに、これにて失礼いたします。』


いつものように違和感が無いように、しっかりと言葉を吐いた。
スッと一歩分身体を引いてから、立ち上がろうとすれば、シャッと突然勢いよく戸が開いて、ゆるりっと顔を上げればそこに居たのは、伊達政宗が私を見下ろしていた。

その目は驚きに見開いている。

今まで見たことの無い、その瞳に数回瞬きした。



「幸・・・?」
『・・何ようでございましょうか、伊達殿・・・』



呟くように名を呼ばれて首を傾げれば、またしゃらりっと簪の桜がなる。
いまだ座っている私に合わせて彼もしゃがみこむ

するりと頬を撫でられて、その指が耳に横髪をかけた。

何をしたいのだろうか・・・と、そう思ってしまうが、その指がスッと紅をさした私の唇に触れてなでる。



「幸・・・」
『・・・申し訳ありませぬ、某はもう行かなくてはならないので。』


けれど、その手をソッと包んで、下ろし立ち上がった。
さっきとは逆に私が彼を見下ろす形になり、彼があけた障子から、中が見え、そして


『行って来ます、お館様』


私のこの姿に驚く家臣たちや、政宗殿のように静かに驚いているお館様。
佐助も、目を見開いている。

ゆるりっと頭を下げて、身をひるがえした




執筆日 20130516




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