-おやかたさま!-
幼き日のあ奴の声が聞こえた気がした。
童のころより儂のそばにあった小さな子供。
あのころは佐助にすべてを任せきりではあったが、少しずつ人として生きることを求め、そしていつの間にか朱の槍を握り儂のそばで戦いをし、強さと信頼と、それらを得て武田の未来を任せるまでに成長していた。
赤き炎を纏い、舞をおどるように敵を散らしていく。
敵にさえ情をもつ、心優しい女子じゃった。
今や、その姿はないが…。
真田の里へなぜ返そうと思ったのか、なぜ手放そうと思ったのかさえ分からぬ。
なぜ、雪を武田へ、儂の養子にしようとしたのかさえ、今はわからぬ。
「お館様!!」
考えにふけっておればバタバタと走る足音と開け放たれた障子。
「南方より敵襲! 家紋は、豊臣!」
あわて、おそれ、そして言われた言葉に目を細める。
豊臣は先日、北条をとった。
こちらに来ることは百も承知・
いや、だがそれはあちらもだろう、
・・・しかし・・・
「佐助は、どうした。」
「佐助どの、ですか?」
ここ3日、あやつを見ぬ
誰よりも幸を探すことに躍起になっている忍ばぬ忍を、
豊臣の動向を探ると、佐助の部下からの情報は、得た、
しかし、当に戻るはずのあ奴の姿は今だ見えぬ。
「いや、自分は。」
「…そうか。」
才蔵でも呼んでしまったほうが早いか、
と、思う前に音もなく部屋の隅に降りてきた鎌ノ助に静かに息を吐く。
鎌ノ助本人の儂を見る目はひどく、
目の間に広がる光景はひどく懐かしい。
しかし、「私」にとってはもうどうでもよいことなのだ・
私は必要とされてすらいなかった。
結果はすべてそれでいい。
『いくぞ、豊臣の威光のため、武田を落とす。』
これが私の望んでいるかどうかは関係ない。
すべては救ってくれた方々のため、すべてはあの方たちの夢のため。
本当に私はそれでいいのだろうか
執筆日 20140918