あぁ、このような感覚を私は知ってる…。
手を伸ばしても、つかむのは黒い霧のような炎だけ。
苦しくは、ないのだ、
上がる水しぶき、
私に伸ばされる手。
私の伸ばした手に、手を重ねようと手を伸ばしている。
もう、遅い…
私の手に、絡むことなく、黒い炎に絡め取られた男はそれでも私に手を伸ばし続けた。
掴んで、と、
空気が逃げるのも構わず、口を動かし、
ああ、なんてなんて、愚かな男だろう。
憎んでも、恨んでもいいといった。
けれど、おそらく「私」はそんなこと望んではいないのだ。
手を潜り抜けて、男の首に手を這わす、
驚いたように私を凝視した。
そのまま足を動かし、こちらが有利になるように背を水面へと向ければ、息が続かなかったのか、それとも私の力で苦しくなったのか、
空気の泡が男の口から吐き出され、苦しげに表情がゆがむ。
まだ、息は続くようだが…
けれど、こうなることをわかっていたかのように、望んでいたかのように…
男は、私のほほに手を伸ばす。
「_ _ _ _
_ _ _ _ _ 」
優しく笑んで、ゆるりと目を閉じた。
添えられた手が、離れていく。
こぽり、こぽり、
男の口からこぼれるように漏れる息。
そっと、腕の力を込めた
ごめんね、
あいしてる。
そんな、言葉、いまさら…
執筆日 20140621