「あぁ、幸さま…なんてお美しい…」
『お世辞は止めてくだされ、恥ずかしゅうございまする。』
後ろで、付きの女中が私の姿を見て、声を上げる。
けれど私にとって、これは・・一生したくなかった行動。
スッと、着慣れない紅蓮の着物を纏い、立ち上がる。
姿見に映る私。
『(あぁ、やはり私は女子だ…)』
軽く、化粧をし滅多に結わない髪を結い、謙信殿から頂いた上田城の大輪の桜を掲げた簪。あぁ、私には全く似合わないというのに・・・
苦笑いをしてしまう。
「幸さま、準備が整いました。」
ふと、そう思いにふけっていたら掛けられた声。
ソッと視線を障子に向け、それからススっと歩き出した。
あぁ、着物が重い。
これならば、槍をもち何時ものように駆け回りたいと心の中で笑ってしまう。
着物の内側に、一本だけ懐刀を忍び込ませる。
これは、あの方がくれたもの。
大切な、もの・・・っ
シャッと、障子を開ければ、外に居た忍・・・鎌之介殿と目が会う。
驚いたように、才蔵殿は目を見開いたが、すぐに頭を下げた。
『醜きものを、見せてすみませぬ鎌之介殿』
「い、いえ、とても・・・っとても、美しゅうおもいますっ」
『世辞でも、感謝する』
にこり、微笑む。
私の言葉に、鎌之介殿はバッと顔を上げた。
「世辞などでは!!」
『今までありがとう、鎌之介殿』
「っ!!」
声を、張り上げられた。
けれど、その表情のまま、そういえばゆらりっと一度瞳を揺らす。
それから、頭を下げた。
「貴女は、っ貴女様はやはり酷いお方だ。」
『あぁ、そうだろうな。すまぬ、先に行っていてくれ、私はお館さまたちに報告に行く』
「…御意に」
荷をまかせ、歩き出す。
後ろで、大広間にございます、と声が聞こえた。
すまぬ、すまぬ
『(自分で作り上げた真田十勇士を見捨てる私を、どうか)』
許してくだされ
執筆日 20130512