何度も空中で刃を合わせ、はじく。
だんだんと地面に近づいてくるのを体で感じながら風を浴び、目の前の女を見る。
俺と同じように落ちていく幸は俺に攻撃する手をとめてくるりっと回転し、俺から少し、距離をとった。
『堕ちたな独眼竜。』
「…あぁ、だが、それはお前もだろ幸。」
『…』
風の音で、聞き逃すかと思ったがはっきりと聞こえ、そして聞き取ったらしい。
無表情のまま俺の言葉を聞いている。
その表情は、どことなく恐ろしく
かつての暑苦しいと思うやつではなく
どこか…
明智のような殺戮を楽しんでいるような…
『だが、語弊だな独眼竜。
私は堕ちたわけじゃない、
貴様らが勝手に引きずりおとした、それだけだろう』
紅い袖から出されたふえ。
シューと風の吹き抜ける音がした。
「!」
『私の役目は終わりだ。』
「まてっ幸!」
『…幸、か
そう、貴様は帰りたいのかもしれないが、私にはもう、時間はない。」
忍び笛、だと思ったがそれは鳥のように羽を広げた。
おそらく、武田が使っていたものだとすぐに分かったが…
去り際に、幸の言った言葉が…
その瞳が…
同時刻、
大阪城にて豊臣秀吉率いる大群が宇都宮に出陣した
執筆日 20131212