「卿はふらふらとこんなところにいたのかね、」

『…』



身体がだるい。
ゆるりと体を起こして、ボーとしていればかけられたのはその言葉。

掛けられた声は…ひどく聞いたことのある声。


視線を向ければ月光

光を背に逆行で顔は見えないが…


だが…



『松永…久秀…?』



その声は何もかも知っている。
私から…「それ」を奪った者…

すたすたと当たり前のように私の前まで歩いてきては膝をつく。




「壊れた人形にさほど興味はないが…
 だが、卿は多少違うのだよ。」


『?』

「甲斐の虎の愛娘。
 武田の次期当主。

 今は豊臣軍の騎馬隊を纏め上げる隊長だったかね。」



するりと、首にかかっているそれが引っ張られる。
一瞬の息苦しさと近くなった顔の距離。

なにかを求めるその眼と目が合う。



「まったく、次々に卿はものを得る。
 それを壊すのは見ていて楽しいが…まだ…壊れそうだ。」

『何…』

「独眼竜に、会いたくはないかね。」

『…どくがん…りゅう…』

「ほぅ、おぼえていないかね。」




わからない、わからない、わからない…



「卿の希望とは、卿の記憶でもあったか。」



愉快愉快


笑うこの人は、おそらく、私を知っている
私を、知っている。






私の知らない私を知っている



手が離されて小さく咳き込む。
目の前から影が消えた。



「まぁいい、卿が今より壊れるのを楽しみにしているよ。」



執筆日 20130919



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