想イ輪廻 | ナノ

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『これから…また戦ですか…。』


部屋の外にいる半兵衛様にそう声をかけながら、鋼でできた胸潰しのようなものをつけた。薄いそれは明らかに軽めの防具、と言ったところだろう。
着方を教えてくれたのはありがたいのだが、本当はつけたくない、と言うのが本音。
「そうだよ」と私の問いにさも当たり前に答えた彼には少々驚きが募るが、彼にとって戦は軍師としての仕事の場所だ。間違いじゃない。

戦に出ろと、普通女に言わない。だが、彼は似たことを言った。
それは、私を駒と考えているからか…それとも、本当に戦において使えると思ってくれているからか、それはわからないのだが、居場所を与えてくれようとしているのかもしれないと、いい方向に考えてしまう。

石田様が私に寄越してくれた紫色のケース。
そこのなかから、ライフルの銃弾をありったけ半兵衛様にもらった銃弾用のポシェットにいれた。元々持っている量も多いわけではないし、これで人が殺せるかどうか、それは分からない。

けれど…選ばれてしまったのなら…私は…居場所の無い人間はそれに従うだけだ。


『半兵衛様は、どうして私を今回の戦につれていってくれるんですか?』


肩にライフルを背負い、自分の荷物をもって、障子越しに膝をつく。
そうすれば、「キミは言っただろう、私は弱い人間に成り下がらないって」そう返された。まさかその言葉を言われるとは思っていなかったから、苦笑いをしてしまうのは許してほしい。
障子を開いて、その体勢のまま、頭を下げる。


『未熟者ですが、足手まといにならぬよう、全力を尽くします。』
「そんなにかしこまらないでいいよ。戦線には出さないつもりでいるから、安心して」
『はい。』


蘭学だけじゃ、駄目だって知ってる。今はどんなことでも頑張る。顔を上げれば、優しく微笑んでいる彼の姿がある。どうして彼はこんなにも私を信頼してくれるのかわからないが、それに答えないわけにはいかないのだ。

私の肩にぽんっと手を置いて、歩き出した半兵衛様。その後ろを2歩分遅れてついていく。

前を歩く彼の腰には、剣が一本。彼には似合わないと思ってしまうのは、私だけなのだろうか


「緊張するかい?」
『…いえ、大丈夫です。』


私が持ってきたものとは別の医療道具は、彼が私に与えてくれたものだ。
これは、初陣というものなのだろうか…前回はきっとカウントしない。私が向かうのは簡単に人の命を奪う、私の世界では絶対にありえなかった戦場だ。

私も勿論、奪い、奪われる側だろう。半兵衛様がどういう意味で私を使うのか分からないが、できれば軍医としてがいいなと、そう思う。
戦線には出さないといってくれたが、実際はどうなるかはわからない。
できれば、足手まといにはならないように、精一杯誰かのために働きたい…。
それが私の願いだ。


「戦は、この前のと合わせて2回目だね。」
『…はい。』
「もしも、戦場に出てしまったら、絶対に人を殺すのをためらっちゃいけないよ。」


さらりと告げられた言葉に、思わず足を止めてしまった。
その私の気配を読み取れないほど彼は前を見ていた訳じゃない。そのまま振り返り私の姿をおさめて、小さく微笑む。


「覚えておくといい。君は君の未来の為に、他人の未来を犠牲にするんだ。戸惑ったら、簡単に君の未来は赤の他人に奪われる。それは君の大切な人もだ。」


まるで、死刑宣告にも似た。

殺気…ではないが、気がピンッと張り詰め空気がぴりぴりしている。分かってる。私は身を守る為に、武器(これ)を持っている。

もとは、人を殺すためにつくられたものを。
本来ならば、部活で競うだけだったこの銃で…

軍のため、主のため、命を懸けて、戦場を駆け…未来を賭け、そして散るのだろうか。


『…覚悟は、出来ています。』


吐き出した言葉に、迷いは含めなかった。
私の様子に彼は笑う。
きっと、これでいい。…それなのに、脳裏に浮かんだのは、とある医学書で読んだ史実だ。


『(本当の史実だったら…)』


彼は…竹中半兵衛は…病にふせ、死ぬのだろうか…。それとも、戦場で天寿を全うするのだろうか…
過去を変えるということは歴史を…未来を変えてしまうことに繋がってしまうんじゃないか。

でも、いまはきっと進むことしか許されていないんだろう。その道を進むしかない
だから、私は、ついていくだけだ。


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