【番外編】思い出のネックレス シャンクスside
「おとうさん、それでさ」
ある昼下がり、おれは愛娘ーーーソラの話を聞いていた。ふと、ソラが身振り手振りで話す度に同じように揺れる、首に掛けられたルビーのネックレスへ視線は向いた。すると、自然と懐かしい記憶が浮かび上がる。
ーーーあれは日が沈みかけていた時だったか。その日は島に着港し、皆が買い出しに行っている最中、おれはそろそろ6歳の誕生日を迎えるソラと手を繋ぎながら店を見て回っていた。ソラの洋服やら、生活用品を買う為だ。ぱんぱんに膨らんだ紙袋を3つ程左手に下げながら、一旦荷物を置きに船に戻る途中、ソラはある店前でピタッと止まり指を差した。
「…まっか!」
「ん…?どうしたんだ?」
指の先には窓ガラス。そこにはきらきらと目を輝かせているソラと、店内に飾られているのだろう、見事な真紅色のルビーのネックレスが映っていた。
「パパといっしょ!」
顔はこちらに向けないまま、ガラス越しに見えるネックレスを食い入るように見つめるソラはしゃぐ姿も可愛いなァ、と思いながらも少々屈んで、自分も釣られるように見詰めた。
「おれと一緒?」
「うん!まっか!」
「ははは、おれが"赤"髪だからか?」
「…きれい…」
既に、ネックレスに夢中でおれの声は聞こえていないようだった。変わらず窓ガラスに反射するソラの顔はどう見ても、子供が何かを欲しがっている時の顔だと瞬時に理解した。
「お頭、ここに居たのか」
後ろから聞き慣れた声がし、振り返ると赤髪海賊団の副船長、ベン・ベックマンがそこに居た。恐らく買い出しが終わったのであろう、船長である、おれを探しにきた様子だった。
「悪い、少しソラとのデートが長引いてな!今戻るよ。ほら、ソラ、行こう」
「…うん」
手を差し出すと名残惜しそうにネックレスから視線を外し、小さな手を重ねてくるソラ。ベックマンは全く、デートじゃなくただの買い物だろう、と呆れた表情をしながらも「おれが持つ」と紙袋を持ってくれた。そのまま3人で船へ戻る事にした。
ー1ヶ月後ー
明日はソラの誕生日。本当は日付が変わった瞬間、盛大に祝ってやりたかったが既に時刻は21時を回っており、もう子供は寝る時間だ。いつも通りソラをベッドに連れて行き、寝かし付けてやる所だった…が、その前に、誕生日プレゼントを贈ろうとしていた。本当は明日の宴の時にでも贈ろうかと思ったがやはり、早く渡して、どんな反応するのかを見たかった。
「パパ?」
"いつもとんとんしてくれてたのに、今日はしてくれないの?"と言わんばかりに見つめられるが、ぐっと我慢をする。
「実はな、お前に渡したい物があるんだ」
「ほんと?!」
渡す物と聞けば勢い良く上半身を起こす、その反応に微笑ましい気分になりながら懐からラッピングされた小箱を差し出した。
「ちと早いが…先に、誕生日おめでとう、ソラ」
「わあ…!!」
「ほら、開けてみろ」
そう言うとわくわくとした表情で小箱のラッピングを解き、中身の物を取り出した。すると、またキラキラと輝き出す表情。
「これ、あのネックレス!パパといっしょの色!」
「あァ、欲しがってたろ?そろそろ誕生日が近いし、折角だからプレゼントにしようと思ってよ」
喜んでくれたか?と言葉にするより前に、ソラは首元に抱き着き、柔いほっぺたで頬擦りをしてきた。表情筋が一気に緩んでいくのを感じながら、壊れてしまいそうな程小さく、柔い体をぎゅうっと抱き締めた。
「ありがとう、パパ!大事にする!大好き!」
「はははっ、喜んでくれて良かった!おれも大好きだぜ、ソラ!」
愛しくて愛しくて堪らなくて、何度も頬や額に口付けた。
ーーー手放したくねェ、って改めて実感した日だったなァ。
「…って、おとうさん、聞いてる?
何ぼーっとしてるの?」
「あァ、悪い、…つい昔の事を思い出してな」
「もう、ちゃんと聞いてよ!」
「へいへい、今度こそちゃんと聞くよ」
未だに肌身離さず身に付けてくれてるなんて、思いもしねえよなァ。
「何でにやにやしてるの?真面目に聞いてってば!」
そんな不機嫌そうな声を耳にしても、和らいだ表情は暫く戻りそうになかった。
_______追伸_______
久々の更新でした。ツイッターにてSSも書いてますのでこちらの方で改変し、ぼちぼち載せていこうと思います。コメント、すっごく嬉しくて、つい更新しました。ありがとうございます。