青空日和


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03.見張りは仲直りの後で



ザザー・・・。

静かな暗闇に響く、聞き慣れた波音を耳にしながら、見張り台まで縄梯子を使い登る。そこには一人の新入りの船員が居り少々驚いた様子で「ソラさん!どうしたんすか?」と尋ねた。


「見張り変わってもらっていい?」

「ええっ!けど、これはおれ達下っ端の仕事で…」

「良いって!今日はそういう気分だから」


半ば無理矢理見張り台に入り、船員は困りながらも「お頭に怒られたくないんで、少ししたら降りてきてくださいね!」とそそくさと下へ降りて行った。

ふう、と一息つき、夜空を見上げる。黒に包まれた空にきらきらと星が散らばっており、眺めていると心が落ち着く。海も夜空と同じように、朝には見惚れてしまうような真っ青が広がっているが、夜になると辺り一面黒に変わる。頼りなのは柔い黄色で海を照らす月明かりだけだ。

そんな風景を飽きる事なく、暫く傍観していた。











「…羽織るもの、持ってくれば良かったな」



羽織るものを持ってこなかった事に後悔を覚え、つい本音を零した。しかし、こう零している間も夜の冷え切った風は容赦無く私の肌を撫でた。少しでも温まるように己自身を抱き締めるが暖なんて取れる訳がなく、渋々部屋に戻ろうとしたーーーその時、ぱさり、と肩に布が掛けられる。


「…だれ?」


「よお、お嬢ちゃん。やっと捕まえた」


斜め後ろの方へ顔を向けるとそこには毎日顔を合わす私の唯一の親、シャンクスの顔があった。態々目線を合わせようと屈んでいるようで、近い。反射的に後退り、ムッと顔を顰めた。そして掛けられた布ーーー常にシャンクスが羽織っている黒色の外套。その肩口をぎゅっと握り締めた。


「…何しにきたの?」


「ははは…まだご機嫌斜めか?ただ寝かし付けに来ただけだ、新入りがソラさんが見張り代わるって聞かないんです〜って言いに来てよ。…あんまり新入りをいじめるなよ?」


不機嫌そうな反応しても相手はどこ吹く風、ただ隣に居るだけでご機嫌なようで、にっと晴れやかな笑みを向ける。


「いじめてないってば!ちょっと寝れなかっただけで…」


ついその笑みから目を逸らし、月明りに照らされた海の方へ視線をやった。認めたくはないが嬉しい気持ちは確かにあり、もやもやとした。今日1日、朝の件で逃げ続けていた事もあり顔を合わせ辛かったが、そんな気まずささえも壊して、踏み込んでくる。それが、赤髪海賊団の大頭。


「…へえ、そうか。なら、久々におれと一緒に寝るか?」

「やだ」

「駄目か…昔は毎日一緒に寝てたのになァ」

「昔と今は違うんですー」


そんな下らないいつものやり取りをすれば次第に口元が緩み、最終的にはふっと、吹き出して自然と笑みが溢れた。するとシャンクスも顔を弛ませ「やっぱり、笑顔がよく似合う」と呟き、愛しそうに娘の横顔を見詰めた。

こんな夜に調子を取り戻し始めた親子は、各々の見張りや寝かし付けるという目的忘れ、明日の話に花を咲かせた。



「ねぇ、昼頃には島に着くよね?買いに行きたいものがあるんだけど」

「ああ、何が欲しいんだ?何でも買ってやる!」

「ありがとう、実は新しい洋服が欲しくて。ついでに、おとうさんと一緒に見て回りたいな……なんて」

「…!そうかそうか!勿論だ!!一緒に見に行こう!!この可愛い奴め〜!!」


素直なお願いに親馬鹿であるシャンクスが嬉しくないはずがなく、夜だということも気に留めず声を大にして喜んだ。すぐ様抱き寄せればわしゃわしゃ、と髪をかき混ぜるように撫でた。娘は「やめてよ」なんて言うが内心は嬉しく、また、その事を親である彼は理解していたからか、愛でるように撫で続けた。

肩に掛けられた外套は夜風に靡いていた。




ーーーあと少しだけ、このままで。









「いつお頭とソラさん、降りてくるんだろう…」


ぽつり、と甲板に佇む新入りは、思わず呟いた。


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